子猫との日常 | ナノ


嫌な予感って大抵は当たるものだけど、今回ばかりは当たって欲しくなかったなぁ……。

あ、もう私泣くかも泣いちゃうかも。


「なんでそんな泣きそうな顔してんの?」


お前のせいだ馬鹿野郎!

と言いたかったけれど、あまりの衝撃と呆れから口から出るのはため息ばかり。

だってそうでしょう?

家に帰ってきたら、家の中で(自前の)パソコンいじって仕事?をしてる情報屋が居たら誰だって混乱するよね?


「あ、俺ここに住むことにしたから」

「は、え……は?はああぁあぁ!?」


あ、やっと声出た。
なんて思ってる場合じゃない。今こいつなんて言ったここに住む?は?何言ってんのホント信じらんない。


「いいじゃない。シズちゃんが住んでるなら俺だって」

「いやいやいやその論理はどっからきてるの。てかあんたの思考回路はどうなってんの。ていうかどうやって家の中入ったの!」


臨也は何も言わずにポケットから鈍く光るものを取り出した。それをプラプラと振るたびに、キーホルダーのクマも揺れる。

あ……もしかしてそれって。


「そ、奏んちの合鍵。小さい頃貰ったやつ」


確かにあげた。
共働きの両親が、何かあった時すぐ駆け付けてあげてねなんて言って渡して……その時に臨也の家の鍵と間違わないように、私のお気に入りのクマのキーホルダーもあげたんだ。


「…………はぁ〜」

「ということで、これからよろしくね」

「うん、……って違う!」


鍵の問題は解決したけど、住んでいいかどうかは解決してない!
臨也はあからさまに面倒くさそうな顔をした。

……どうしよう、今ものすごくこいつをぶん殴りたい。


「……その子に興味を持ったから」

「え?」

「俺の家に突然現れて、偶然とは言え俺と関係の深い奏やシズちゃんと接点を持ち、一緒に暮らしてるその子に興味を持ったから。そんな理由じゃ、駄目かな」


そう言ってイザにゃんを指差したまま、シズちゃんと関係が深いなんて思いたくないけど、と臨也は付け足した。

う、わ、そんなはっきり理由を述べられると断る理由が出てこない。
イザにゃんを利用しないということは昨日約束して貰ったし……待て待て私、まだ大きな問題が残ってる。


「でも、」

「ん?」

「静雄が、いるよ?」

「知ってるよ」


それが何?と言って臨也は視線を私からパソコンへと移した。

え?静雄いるんだよ、一つ屋根の下に静雄と臨也がいるなんて考えられない。

でも悲しいかな、それが現実で、インターホンが鳴った。

なんていうか……彼氏である静雄がインターホン鳴らして、ただの幼馴染である臨也が堂々と合鍵使って家に入ってるというのは、流石になぁ。
寂しいものがある。
今度合鍵作って渡そう……。


「……臨也、てめぇまた来たのか」

「来ちゃった」

「そうか。それはわざわざ俺に殺されにきたってことでいいんだよなァ?」

「残念、ハズレ。俺はここに住みに来ました」

「あ"ぁ!?」


既に火花を散らしている2人を見てため息をつく。
静雄に許可を求めたところで降りるわけがないし、だからといって臨也がすんなり出て行ってくれるとも限らない。

下手したらイザにゃんだけを連れて行ってしまうかもしれない。

これは、私がやるしかない。


「わかった」

「奏、まさか」

「臨也もここに住んでいいよ」

「やった!」

「ただし、条件があります」


あれ、これデジャヴ?数日前こんな光景があったような。誰かさんが同じようなこと言ってたよね?ま、気にしない。

私は静雄と臨也を並んで座らせた。イザにゃんは私の膝の上。

私が提示した条件はシンプルだけどとても大事なこと。



・家の中で喧嘩しない

・家のモノを壊さない

・からかいなどで相手を挑発しない

・イザにゃんにいじわるしない



「これのどれか一つでも破ったらペナルティ」

「具体的には?」

「時と場合による。あと私の気持ち次第」

「ちょっと待てよ、こいつが後から入ってきたのに、なんで俺にも条件がつくんだ」

「そうしないとあんた調子に乗るでしょ」


それで臨也に変に高圧的に接したらそれはそれでとても面倒くさい。
これが一番丸く収まるんだもん仕方ないじゃない。


「じゃ、改めて今日からよろしくね」

「はい、よろしく。イザにゃん、今日からこの人も一緒だからね」

「いっしょ?たいせつ?」

「大切にしなくていいぞ」

「??」

「酷いなぁ!俺も今日から家族だよ」


かぞく?とイザにゃんが聞くと臨也は満面の笑みでこくりと頷いた。


「俺のことは臨也でいいよ」

「いざや」

「そうそう。じゃ、早速お風呂入ろっか」


ひょい、とイザにゃんを抱き上げて立ち上がった臨也に私と静雄は目をぱちくりさせた。
どうやら勝手にお風呂も沸かしておいたらしい。どんだけ都合いいんだ。


「……静雄、ごめん」

「謝るな。悪いのは全部あのノミ蟲だ」


逆に都合が悪いのは私の方で、心から静雄に謝ると静雄はおでこに軽くキスをしてくれた。






















(見せ付けてくれちゃってまぁ……)


リビングを出てから、そっと中を伺っているとシズちゃんが奏の額にキスしているのが見えた。


「いざや、おふろは?」

「うんうん、今入るからね」


奏には一つ嘘ついちゃったな。……いや、嘘でもないか。俺がこの少年に興味あるのは事実だし。


(もう一つ、大事な理由があったんだけど)


言ったら奏はどう思うだろうね。怒りは、しないと思うけど。

奏の反応を想像して少し自嘲しながら、俺はバスルームへと向かった。






(家族?が一人増えました)




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