子猫との日常 | ナノ


あのね、えっとね……きょうは、たいせつなひ、なんだって──。





目が覚めると、奏と静雄と臨也はとても忙しそうにしていた。朝早いのに、津軽も、デリックも、日々也も、奏たちを手伝っていてなんだかバタバタしている。だからぼくは、サイケと一緒にデリックたちのお部屋でお絵かきなんかをして遊んでいた。


「みんな、いつになったらゆっくりできるのかな…」


サイケがつまんなそうに呟く。うーん、わかんない。忙しいのが今だけなのか、ずっとなのか。けれど、今日は大切な日なんだから、ぼくたちは、がまん、しないと。


「それにね、おれたち今日はおるすばんなんだって」

「おるすばん?」

「奏とシズちゃんが、二人でパーティーをするんだけど、おれたちは行けないって津軽が言ってた」


サイケは不満そうにクレヨンを紙に押し付けた。確かに、それはつまらないかも。おばあちゃんたちが来た時もそうだったけど、みんな一緒がいい。奏たちだけ、ずるい、という気持ちが正直ちょっぴりある。
サイケと一緒にちょっとだけむぅっと頬を膨らませていると、誰かがガチャリと部屋のドアを開けた。


「サイケ兄ちゃんににゃんにゃん、俺たちもそろそろ出掛けるぞー」


デリックの言葉に、サイケと二人で首を傾げる。だってぼくたち、きょうはおるすばんだって。


「奏たちは?」

「もう出発した。臨也は招待客なんだからもっと遅くてもいいのになぁ…ついてっちゃったし」

「きょうは、おるすばんじゃないの?」

「確かに出席は出来ないけど、始まる前なら会えるって。大事な日だし、俺らも一応正装の方がいいよな?」


そう言ってデリックはクローゼットからあのピンクのシャツと白いスーツを取り出した。ついでに日々也の服やマントも出している。いつもは臨也の服を着ている日々也まであの服を着るんだから、きっとすごいところにいくんだ、となんとなく考えた。


「サイケ、着替えるからこっち来い」

「津軽!」

「イザにゃんは僕と一緒に着替えましょうね」

「ひびや?」


あっという間にお出掛け用の服を着せられて、外に出た。外には大きな車が止まっていて、開いた窓から幽が小さく手を振っている。あ、幽もスーツ着てる。ぼくたちが車に乗り込むと、幽はすぐに車を出した。


「シズの弟さんだっけ?悪いな、わざわざ」

「いえ。あなたたちには、いつも兄がお世話になっていますから」


本当は出席してもらいたいんですけど、と続ける幽。まだなんの話をしているのか全然わからない。どうしてみんな忙しそうで、どうしてみんなは立派な服を着て、どうして幽は迎えにくるんだろう。謎は深まるばかりだ。


「裏口に臨也さんがいるはずです」


幽の言う通り、車を降りたすぐ側のドアには臨也が立っていた。白いネクタイに黒いスーツ…幽とおんなじ格好だ。臨也の元に駆けていくと、いつもみたいに臨也はぼくを抱っこしてくれた。


「よしよし、みんないるね。じゃ、行こうか」


裏口から中に入って、エレベーターに乗る。チン、と軽い音が鳴ってエレベーターから降りると、臨也は口元に人差し指を当てて「しー」のポーズをした。ぼくもぱっと口に手を当てる。しー。
赤い絨毯の廊下を歩いて、臨也はある部屋の前で止まった。みんなの方に振り向いてにっこり笑うと、静かにドアを開ける。


「「わあ……!」」


部屋の中には、真っ白なドレスを着た奏と、真っ白なスーツを着た静雄がいた。


「かなで、ふわふわして、きらきらして、おひめさまみたい!」

「お綺麗です、とても…」

「ふふ、ありがと」

「シズちゃんもかっこいい!ね、津軽!」

「ああ、そうだな」

「似合ってるぜ、シズ!」

「…サンキュ」


二人並んでいると、本当にお姫さまと王子さまみたい。とっても綺麗で、とってもかっこよくて、二人ともにこにこしてて。なんだかぼくも嬉しくなって、耳がぴこぴこ動いた。そんなぼくを奏が優しく撫でてくれる。…きもちいいな。


「シズ、いいかな」

「ああ」


デリックと静雄は手を繋ぐと、その場から消えた。たぶん、あっちの世界に行ったんだと思う。すぐに現れた二人の後ろに、大好きなその姿が見えた。黒いコートに赤いファー。駆け寄ろうとしたけれど、静雄と繋いでいた手がすぐに震えたのに気付いたから、やめることにした。


「……綺麗だ、すごく」

「八面六臂…」


どこかぼうっとしているろっぴは、いつものろっぴじゃないみたい。ろっぴが奏に近付く。奏は、ろっぴの首に腕を回すとゆっくりゆっくり抱きしめた。ろっぴも、奏の肩に顔を埋めるようにして背中に片腕を回す。


「おめでとう奏。俺、嬉しいよ」

「ありがとう」

「奏が幸せなら、俺たちも幸せなんだ。胸の中がすごくぽかぽかして、気持ちいい」


顔は見えないけれど、ろっぴの声は泣いているように聞こえた。ろっぴはきっと、うれしくて、でもちょっとだけかなしくて、だからないてる。奏はもう一度「ありがとう」と言ってろっぴの頭を撫でた。奏から離れたろっぴはいつもみたいに顔を隠している。ろっぴのところに行こうとしたら、後ろから抱き上げられた。


「じゃあ、俺たちはここらで失礼しようか」

「え、つがる?」

「僕たちはあちらからパーティーを見るんですよ」

「「ほんとに!?」」

「待って。始まる前に、みんなとぎゅー、していいかな」


奏の言葉にみんなが頷いて、ひとりずつぎゅーをした。最後にぼくが奏と、ぎゅー。


「ありがとう、イザにゃん」

「う?」

「私たちの元に来てくれて、ありがとう。あなたがいなかったら、きっとこんなにあったかい毎日を送ることはできなかった」

「…かなで、なかないで」


せっかくきれいなのに、よごれちゃうよ。
そう言えば、奏は困ったような顔をして、いつもの笑顔を浮かべた。やっぱり、にこにこの方が奏には似合う。それに──

何も知らない怯えたぼくに、手を差し伸べてくれたのは奏だから。


「これからもよろしくね」

「うん!」


奏がいて、静雄がいて、臨也がいて。
サイケも津軽もデリックも日々也もろっぴたちも。
みんなみんな一緒に笑って泣けるような、そんな毎日。



それが、

ぼくのにちじょう

だから。







2011.09.30 fin...

See you again!!





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