「25日、空いてる?」
「25日空いてっか?」
そう、同時に尋ねられた池袋の街角。
それぞれ違う方向から同じタイミングで話しかけることは、かなり難しいことだと思うのだけど…。変に気が合う二人が戦争を始めるのにそう時間は掛からなかった。
…………で。
「どうしてこんなことに」
「えー、名前が言ったんだよ?『わかった、25日は二人と一緒にいるから喧嘩はやめなさい』って」
「言ったけど……」
「ま、こいつと一緒なのは気に入らねぇが、お前と一緒にいれるならいい」
「あっシズちゃんずるい」
後ろから引き寄せられて肩に額を乗せられる。もふもふの髪をため息をつきながらくしゃりと撫でてあげると、ムッとした臨也が私を自分の方へと引っ張った。お腹には静雄が手を回しているので、変に上半身だけ折れた形になる。うう…苦しい。
そもそも何故こんな状況になったかと言えば、臨也の言うように私が二人の喧嘩の仲裁をしたことが原因なわけで。自分で蒔いた種とはいえ、まさか本当に二人と過ごすことになるには。てっきりお互いに一緒にいたくないとお流れになると思っていたのに。
そんな経緯があって、私は無駄に豪華な料理が並んだ臨也のマンションに静雄と二人招待され、今はソファの上、二人に挟まれているわけです。まったく、あの時の自分を殴りたい。
「と、いうか!二人とも酔ってるでしょ!はーなーせー」
「酔ってない酔ってない」
「ん…名前いい匂いする」
訂正、いま目の前にいるこいつらを殴りたい。
高級なテーブルには空いた缶とボトルが散乱している。消費者はとっくに顔を赤く染めて幼児退行しているし……良かったねアルコールたち、君らはしっかり仕事をこなしたわけだ。
半ば強制的に連れてこられ、酔っぱらい二人に挟まれる。こんな聖なる夜があってたまるかとも思うけど、肝心なところでぼうっと思考が止まってしまうあたり、私も少しは空いたボトルの犠牲になっているらしい。
「……もー疲れた。眠い」
「よし一緒に寝よう」
「ばーかシズちゃん、まだプレゼントあげてない」
「…………ああ、」
プレゼント?私にプレゼントなんて初耳だ。私は今日ここに来てすぐ二人にあげたけどね。無難にネクタイを。その時くれなかったから、てっきり用意してないのかと思ってた。
後ろでごそごそと荷物を漁っている静雄を小馬鹿にしたような目で見詰めながら、臨也は口角をつり上げた。
「シズちゃんは恥ずかしくて、今まで渡せなかったんだよね」
「っるせぇな。……名前、こっち向け。目、閉じてろよ」
言われて軽く目を閉じる。な、なにをくれるんだろう。さらりと前髪をすかれて、一気に鼓動が大きくなる。あー、プレゼントをくれるだけならそんなことをしなくていいのでは…?
さらに額に柔らかい感触。私の心臓はますます激しく動き出す。もしかしなくても今のって…。
「ん、いいぞ」
どきどきしながらも目を開けると、さっきよりも顔を赤くした静雄がはにかんでいた。その手は空だ。あれ、プレゼントは?と、今さらながら自分の視界がやけに良好なことに気付いた。上げられた前髪に触れるとそこには。
「リボン?」
「ん、名前に合いそうな可愛いヘアピンあったから」
やっぱ似合う、とリボンに触れた私の手と静雄の手が重なる。かあ、と今度はそこに熱が集まった。小さな声でありがとうと、なんとかそれだけ絞り出すと、静雄は額にキスを落とした。あ、やっぱりさっきの。
「今度は俺の番。はい名前、こっち向いて」
未だ熱い顔と手はそのままに、今度は臨也の方を向かされる。臨也は既に淡いピンクのマニキュアを持っていた。すっと手を取られて、指の一本一本がそのピンク色に染まっていく。素早く丁寧に塗るその姿は、ああもう黙っていればただのイケメンなのにと思わざるを得ない。
無事塗り終えて、ふ、と軽く息を吹きかけられた。それからゆっくり、臨也は握っていた私の手を自分の口へと近付けて、手の甲にちいさなキス。なんだなんだ、二人とも酔うとキス魔になるのか。そうかそういうことなら私なんかにこんなことをするのも頷ける。
だってだって、私は二人のただの友達で、親友で、それ以上でもそれ以下でもない、はずなのに。
そうだ、この今までにないどきどきは、クリスマスという聖なる夜の雰囲気とお酒のせいにしてしまおう。
そう心に決めて、私は尚もすりよる子犬二匹の頭を撫でてあげた。
Merry Christmas!!
(ん…?あれ、なんで俺ら3人で寝てんだ?)
(頭いったぁ……。うわ、シズちゃんなんで俺のベッド入ってんの名前ならともかくシズちゃんとかあり得ない)
(二人とも覚えてないんだ。良かったような悪かったような……)
2011.12.25