ふと、散歩に出ました。
前から歩いてきたのは、いつも仲良しな3人組。
「あっ、名前さーん!」
いち早く私に気付いたリンダくんが、勢い良く手を振りながら走ってきた。抱きつかれる前にさっと避ける。
「酷い!」
「だって…セクハラ」
「セクハラ違います!これはスキンシップ!俺と名前さんの距離を精神的にも身体的にも近付ける手段!」
「身体的の方が主な目的だと思うけどね」
あとから付いてきた学天くんがため息混じりに呟いた。心外だと言い返すリンダくんの隣で、時かけちゃんがぺこりと頭を下げた。
「こんにちは」
「こんにちは。みんな相変わらずだねー。…あれ?時かけちゃん、それなぁに?」
「あ…、」
「そうだった!名前さんもちゃんとした麗しき女性じゃないか!おい学天、あれを出せぃ!」
「はいはい…」
また呆れたように、学天くんは自分のカバンをまさぐり始めた。そこから一つの小さな袋を取り出すと、学天くんの手からリンダがそれを奪い取る。
「今日はホワイトデーってことで、俺からの気持ちです!」
「作ったのはほとんど僕だけどね……」
「む…でも愛は俺の方が入ってるぞ!てなわけで、どうぞ」
差し出された袋を素直に受け取って、ありがとうとお礼を述べた。聞くと時かけちゃんもひと足早くもらったらしい。
お茶に誘い出したリンダくんの耳を引っ張る学天くんと、ぺこりと頭を下げる時かけちゃんに手を振って、私は散歩を再開した。
「あれ、名前じゃん」
「お出かけですか?」
「んーん、散歩」
今度はデリックと日々也に会った。コードを揺らして笑うデリックが、ふと私の手に視線を向ける。
「それ、なに?」
「リンダくんたちにもらったの」
「ああ、ホワイトデーですね」
日々也がぽん、と両手を合わせて顔を輝かせた。ああ、と納得したデリックが、くわえた煙草の煙を吐き出す。
それは丸く私に向かってくるけど、デリックは私の目の前で煙の輪を縦に切った。
「なんも持ってねぇから、ほんの些細な贈り物」
「すごいね」
切った輪は、見事にハート型になっていて、私は煙を浴びるにも関わらずただ感心した。
日々也が少し不満げに口を尖らせる。
「デリック、人に向かって煙を吐き出すのは感心しません」
「それが愛でも?」
「愛する人の顔に煙を吹き付けるとは、大層な愛ですね」
日々也の激しいツッコミに、さすがのデリックもたじたじになる。日々也はすみません、と自分がやったことでもないのに頭を下げた。
「僕も何か差し上げられるものがあれば良いのですけれど」
「いや、気にしないで。二人とも、ありがとう」
どういたしまして、と笑う二人とお別れして、私はまた散歩を再開した。
「あれ?名前ちゃん?」
「サイケ、津軽」
今日はやけに知り合いに会う日だな。白いコートのサイケと青い羽織の津軽に軽く挨拶をする。
いつものように私の腕にまとわり付いてくるサイケの頭を撫でながら、津軽に尋ねた。
「どこか行くの?」
「ちょうど、名前の家に行こうと思っていた。名前は?何か用事か?」
「私はただの散歩」
「名前が意味もなく出歩くのなんて…珍しいな」
ちょっと津軽くん。人を重度の引きこもりみたいに言わないでくれないか。
というか私に用事だったんだ。
「そうだよ!おれ、名前ちゃんにとどけたいものがあったの!」
「届けたいもの?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるサイケに向かって首を傾げれば、サイケは津軽から紙袋を受け取って私に差し出した。…あらあら、もしかして。
「津軽にきいたの!今日はホワイトデーで、男の子がだいすきな女の子におかしあげる日なんだよね!」
にこにこ笑うサイケの横で津軽もうんうんと頷く。
可愛らしい紙袋を受け取って、ありがとうと言えばサイケは満面の笑みでまた私の腕に抱きついた。
「おれも津軽も名前ちゃんだいすきだからね、二人でがんばって作ったんだよ!」
「え、手作り?」
「もちろんだ」
「そっかあ。二人とも、ありがとうね」
その後も他愛もない世間話をして、サイケと津軽とも別れた。
「(好きな人、か)」
あれ、私って結構愛されてるのかな?確かにバレンタインはみんなにあげたけど。…いや、それは考えすぎか。
軽く頭を振って自分の考えを振り払う。
そんな私が、みんなからの本物の愛を告白されるのは、数日後の話。
みんな本気でした…。
11.03.14 ホワイトデー