何かおかしいと感じ始めたのは、小学校5年生の頃。
2度目のクラス替えでまた同じクラスになったわけだけど、臨也の様子がなーんかおかしい。
いつもにこにこ、休み時間は友達と遊ぶでもなく、一人で本を読んだり、勉強したり。だからと言って友達がいないわけではなくて、声を掛けられればそれなりに話をしていた。
そんな臨也に私は首を傾げるばかり。んん…なんか、変。
「臨也、あそぼ!」
「奏……僕はいま本を読んでて、」
「毎日本ばっかじゃつまんないよ。外行こう?あ、体育館でドッジもいいなあ」
うん、ドッジにしよう。そう一人で頷くと、臨也の手を引いた。くんっと抵抗されたのは最初だけ。じっと臨也を見ると、仕方ない、というようにため息をついて臨也は立ち上がった。なあんだ、臨也だって満更でもないんじゃない。
「臨也、変だよ」
「……何が?」
「みんなと違うとこ見てる」
「そう?」
帰り道。並んで歩く臨也は頭も良くて、態度もいいからすぐにみんなの人気者になったけど、なぜかみんなは臨也と一緒にいなかった。たぶんそれは臨也がわざとそうしてる。どうしてかわからないけれど、いつも輪の外にいる臨也は、いつも楽しそうだった。羨ましそうではなく、楽しそうにクラスメートを見ているのだ。
だから私はそんな臨也を輪の外まで迎えに行った。なんだかこのままじゃ、臨也がどこか知らないところへ行ってしまいそうだったから。まあそんなのは建前で、単純に一緒にいたかっただけかもしれないけど。
「どうして動物図鑑はあるのに、人間図鑑は無いんだろうね」
ぽつりと溢した臨也の声は、ちょっとだけ拗ねているような気がした。
──僕はある時から『人間』に興味が沸いた。人間という種族に、生き物に、生態に。家族も、クラスメートも、よくよくその行動や考えを見てみるとなかなか面白い。
こういう時、こんな反応をするんだなあとか、こんなことを言うんだ、とか。それが人によって違うのもまた面白かった。みんながカブトムシや朝顔の観察日記をつけるように、僕も人間の観察日記をつけたい気分だった。
だからなるべく輪の中に入らず、外側からみんなを見ていた。のに。
「臨也!こっちおいでよ!」
ただ一人、僕の手を引く女の子。
「臨也、変だよ」
ただ一人、僕の変化に気付いた女の子。
……奏だけが、輪の中から僕のところに飛び出してくる。平気で輪の外に出て、僕をぐいぐいと輪の中に入れてしまう。
グループ分けだってそうだ。クラスでグループに別れるとき、初めはぽつんと取り残されてから、あとで僕を取り合う展開ばかりだった。それに気付いた奏が無理やりグループ分けに参加させてからは、そういうことは少なくなった。
先生やクラスメートから注がれる期待の眼差しとは違う、単純に僕を見つめたその目に、僕は抵抗できなくなってしまうんだ。
でもそれは奏に対してだけで(今のところかろうじて妹たちも入っているが)、他の人はもうみんな平等に『人間』としか見れなくなっていた。
それくらい、僕はのめり込んでいたんだ。他でもない、『人間』に。
さあ、新たな出会いが二人を待っている。