小学校1年生。
入学式の日、お母さんが来てくれると言ったけど、用事が入って結局ゆうちゃんがついてきてくれた。
クラスが発表されて、真っ先に探したのは自分の名前ともうひとつ。
臨也くんの名前だ。
「あっ……あった!あったよいざやくん!」
「え…?わ、かなでちゃんと一緒だ!」
思わずいざやくんの手をぎゅっと握る。おまじない、きいたんだ!
きゃいきゃいと喜ぶ私たちを見て、ゆうちゃんと臨也くんのお母さんはニコニコと笑っていた。
それが、桜舞い散る入学式のこと──。
時が経って、私たちは小学校3年生。1度目のクラス替えでクラスは離れてしまったが、私と臨也の関係は変わらなかった。いつの間にか「臨也」と呼び捨てにするくらいには、変化はしていたけれど。
帰りの会が終わり、わあっと教室を飛び出していくクラスメートに混じって帰ろうとする私に声が掛かる。呼び止めたのは、臨也だった。
「奏!聞いてほしいことがあるんだ!」
「臨也?どうしたの?」
ウキウキ、正にそんな感じで、臨也は私に駆け寄った。
「僕に妹ができるんだよ!!」
「妹!?」
その場でぴょんぴょんと跳ねそうな勢いで臨也は私の手を握る。私はびっくりしたまま、臨也のされるがままにくるりと一回転した。
こんなに嬉しそうな臨也は、初めてだ。そうだよね、家族が増えるんだもんね。嬉しいよね。
いいなあ、私も兄弟が欲しいなあ。
しかも、と臨也は一層目をキラキラさせた。
「双子なんだ!」
「ふた、ご?」
「そうだよ。一気に2人も生まれてくるんだ!お母さんが、いーっぱい頑張るんだって言ってた。お腹もすっごく大きいんだ!」
「そうなの?いつ生まれるの?」
「来週!」
「……へ」
来週?ええ!?そんなにすぐなの!?赤ちゃんって、そんなにすぐ生まれるの?
……この時の私に正しい知識があるわけがなく、ただただ臨也とはしゃぎながらその日を待った。そして正しく次の週、臨也のお母さんは双子の女の子を出産した。
「赤ちゃんって、どんな感じ?かわいい?」
「んー、ふにゃふにゃしてて、ちっちゃくて、あんましかわいくないよ」
「えー、ふつう赤ちゃんはかわいいんだよ!」
「かわいくないよ!サルみたいだもん」
でも、お母さんと一緒にいっぱいお世話してあげるんだ。
そう言った臨也はほっこりとした笑みを浮かべて、黒いランドセルを揺らした。
臨也に妹が生まれたと両親に教えてあげると、両親はそうかよかったねぇと何故か私の頭を何度も撫でた。私も妹が欲しいとねだりたかったけれど、両親が今まで作らなかったということは、つまり『そういうこと』なんだと、そっとその言葉を飲み込んだ。今思えば両親は子どもが出来にくい体質だったから、ねだったところで無理だとやんわり諭されていたかもしれない。
臨也の家に遊びに行くと、そこにはもうベビーベッドに並んで眠る双子……九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんがいた。
「かわいい!」
小さく丸まった手のひらをつつくと、きゅっと握られる。小さな小さな手。私の指を一本掴むだけで精一杯だ。
臨也はそんな私を見て、誇らしげに胸を張った。
「クルリとマイルは、お母さんとぼくが同時にミルクをあげるんだ。片方だけ放っとくと泣いちゃうから」
仕方ないやつだよね、と臨也はわざとらしく肩を竦める。うそつき、ほんとは、お世話できて嬉しいくせに。
この時の臨也はただ純粋に家族が好きだったし、友達も好きだったし、読書も勉強も純粋に好きだった。
そう、この時までは。