過去編 | ナノ


「そして、これが卒園式の写真ですか。一冊目はこれが最後みたいですね」


『卒園式』と書かれた看板の前に私と臨也が並んで立っている。日々也の言う通り、その写真が一冊目の一番最後のページに収められていた。

それにしても、こーんな昔の話をしていると、どうにも楽しい気持ちだけというわけにもいかない。特に幼稚園時代は。小さかった分、思い込みが激しくて、これでいい、これが普通だと今では少し歪んだ捉え方をしていたんだと思う。


「奏が小さくなった時、親を求めなかったのも、知らない人に囲まれて怖がらなかったのも、幼稚園時代の過ごし方が影響してたんだな」

「まあ…たまーにゆうちゃん以外にも親戚の叔父さんとかが来てたから、その類いかと思ったんだろうね。他人に対して警戒心とか全く抱いてなかったし」

「だからその分、俺が警戒心強くなったんだよ」

「そういえば、小さい臨也は最初、かなり俺たちを警戒していたな」


津軽が顎に手を当ててふむふむと頷く。私たちに小さくなった時の記憶はないからよくわからないけど、話を聞いていると新羅の薬は実に正確に当時と寸分違いもなく、きっちり肉体と精神の年齢を巻き戻していたらしい。

なんとなく恥ずかしくなってアルバムをボックスにしまうと、隣に座るサイケがこてんと首を傾げた。


「ねぇ奏。ゆうちゃんは、今なにしてるの?」

「ゆうちゃんはなんと!わたしのお父さんの会社を継いで、二代目社長さんになってます」

「すごーい!!偉い人だ!」

「結婚式の時に泣きながら挨拶してきた人か。確かあの人、社長って言ってたもんな」


あの時は少しびっくりした。号泣しながら手を握ってきたゆうちゃんは何も変わっていなくて。静雄に『奏を頼みます』って何度も何度も頭を下げていた。……泣きながら。


「ゆうちゃん、なきむしさんなの?」

「ふふっ、そうだね。当時の私より泣いてたかも。……でも、その分、とても優しい人なんだよ」


ゆうちゃんの本名は、優人という。「優しい人で優人なんてそのまんまだ」ってちょっぴり愚痴を溢していたけど、私はこんなにはっきりとゆうちゃんを表している名前はないと思った。


「に、しても。小さい時の奏も臨也も可愛いなー」

「本当ですね」

「ふん。ノミ蟲にもこんな純粋な時期があったんだな」

「シズちゃん、俺のことなんだと思ってるのさ」

「でもでも、やっぱり…」

「ああ、瓜二つだな」

「うん。小さい時の臨也と、イザにゃん」

「う?」


みんなで写真と私の膝の上にいるイザにゃんを見比べる。見れば見るほどそっくり。写真にマジックで猫耳を描けば、そこにいるのは臨也じゃなくてイザにゃんにすり替わってしまうほどだ。


「ま、昔の俺とにゃんこがどうであれ、今のにゃんこが堪らなく可愛いんだから、俺はどうでもいいよ」

「臨也の言う通りかもね。似てようが似てまいが臨也は臨也で、イザにゃんはイザにゃんだもん」


私の膝の上から臨也の腕の中へと移動したイザにゃんは、よくわかっていないだろうけど耳をぴこぴこさせていた。

そんな中、静雄がボックスから二冊目を取り出す。


「次は小学校か」

「……その前に、お茶をいれてこよう。日々也、手伝ってくれ」

「はい」


津軽と日々也がお茶をいれてくれるのを待って、私たちは二冊目の表紙を開いた。






(物語は続く)


そして彼は変わり始める。





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