「ゆうちゃんきいて!わたしね、わたし、おともだちができたの!」
お友だちができた。組は違うけど、お残りをしているときに一緒に遊んでくれるようなお友だちが。
折原臨也くん。私よりちょっとしっかりしてて、ちょっと恥ずかしがりや。
でも、一人で遊ぶ私に声を掛けてくれた。一緒に遊んでもいい?って聞いたわたしに、いいよって優しく笑ってくれた。
「まぁ、よかったですね。どうりで今日はご機嫌が良いと思いました」
ゆうちゃんは、お仕事で忙しいお父さんとお母さんの代わりにわたしと一緒にいてくれるお兄さん。夕方からおうちにいて、ご飯を作ってくれたり、お風呂に入れてくれたり、絵本を読んだりしてくれる。
私のお父さんとお母さんは、とっても忙しい。自分たちで会社を作ったからだって、この前お父さんが言ってた。だから、私がお父さんやお母さんに会えるのは、朝だけ。夜は、私が眠ってしまった後に帰ってくるから、あまり会えない。お休みの日は一緒にいてくれるけど、お休みの日自体が少ない。だから私は、家の中でいつもひとり。私以外にはゆうちゃんしかいなかった。
そんな家だったから、私は小さい頃からこれが普通なんだと思い込んでいた。思えば、自分にそう言い聞かせていただけだったのかもしれない。忙しそうに働く両親を見て、『仕方ない。これは“そういうもの”なのだ』と、必死に言い聞かせていたのだ。どんなに泣いても、両親が家にいないことに変わりはない。だったら、その現実を受け入れてしまえばいいのだと。最初からそう決まっているものなら、他の子と比べて泣くこともないのだと。
「いざやくんはね、とってもやさしいの!わたしが、あれやろうっていえば、ぜんぶいいよっていってくれるの」
「そうですか。いいお友だちですね」
「うん。いざやくんもね、よくおのこりするんだって。だから、いざやくんのおかあさんがおむかえにくるまで、わたしとあそんでくれるって」
突然、私と繋いでいたゆうちゃんの手に力がこもった。不思議に思ってゆうちゃんを見上げると、ゆうちゃんはちょっと泣きそうなお顔をしていた。
「……すみません。僕が、もっと早くお迎えに行けたら、奏が寂しい思いをしなくて済むのに」
ゆうちゃんは優しいから、私の為に泣いてくれる。ゆうちゃんがうちに来て少し経った時、家にひとり、取り残される私を見て、ゆうちゃんは泣いた。私がどうして泣くのかわからずおろおろしていると、ゆうちゃんは私をそっと抱きしめてくれた。
そうして、「これからは、できるだけ一緒にいます。奏さんが寂しくないように」って、泣きながらそう言った。何を言っているのかよくわからなくて、とりあえず「奏でいいよ」って言ったら、なぜか更に泣かれてしまった。
「わたし、さびしくないよ?ゆうちゃんが、ぜーったいむかえにきてくれるって、しってるもん!」
「……っ、そうですか。ありがとう、奏。今日は特別に…んしょっ」
ゆうちゃんが私を抱き上げる。一気に高くなった視界。だっこ、だいすき。自分が大きくなったみたいだし、なにより、他の人の温もりがすぐそばにあることに安心した。だから、私はきゃーっと歓声を上げてゆうちゃんに抱きついた。だいすき、だいすき。うれしいな。この気持ちが、ゆうちゃんに届きますように。
「ゆうちゃん。きょうの、ばんごはんは、なんですか」
「はい奏。今日の晩ご飯は、シチューです」
「ほんとっ!?」
「本当」
「やった!しっちゅう、しっちゅう、うれしいな!」
「ふふ。あまりはしゃぐと落ちちゃいますよ」
そう言われゆうちゃんにしがみつきながら、私は嬉しさといっしょに、臨也くんのおうちの晩ご飯はなんだろう、と今日出会った彼の顔をなんとなく頭に思い浮かべた。
受け入れてしまえばほうら、何もこわくない。