「そのおでこ、痛そうだね」
球技大会の帰り道、珍しく一緒に帰ろうと誘ってきた臨也が、ぴっと私の額を指さした。
あれから濡らしたハンカチで冷やしたものの、赤くなった額は元に戻ることなく、わずかに赤みを残していた。
「そ、そうかな。もうあまり痛くないよ」
「だいたい、参加種目がバドミントンなのにどうしてそんなとこ怪我するわけ?」
「実は保健室で……」
金髪の彼のことを伏せて、消毒液のボトルで怪我をしたことだけを話すと、臨也は大して興味もなさそうにふぅんと呟いただけだった。何よ、聞いてきたのはそっちでしょ。
というか、臨也の機嫌が悪い。
臨也が参加したバスケは学年トップの成績を残したし、今日は金髪の彼と喧嘩もしていないはず。私が考えあぐねていると、未だ無表情の臨也が口を開いた。
「……誰の怪我を消毒しようとしたんだよ」
「誰って、怪我すれば誰だって」
「奏が知ってる奴なのか?」
思い浮かぶのはモデルのような彼のこと。けれど、残念ながら私は彼のことを知っていると言えるほど、知ってはいない。せいぜい同じ学年だということと、平和島静雄という名前くらいしか。
「会ったんだろ、あいつと」
「あいつって?」
「金髪の化け物だよ。せっかく学校に近寄れないよう仕掛けたのに…よりによって奏が当番の時に来るなんて」
途中から完全に独り言となっている。臨也にしては珍しく、えーと、なんだっけ…苦虫を噛み潰したような?表情に変わっていた。
入学してから半年以上も経つのに、臨也は私が彼と接触するのを極端に妨害していた。入学式の次の日に、新羅くんが彼のことを話してくれたこと以外は、バッサリとその話題を切り捨ててしまうほど。
臨也が彼を酷く嫌っていることはわかっていたけれど、それ以外のことはさっぱりだ。
それは私が深く追求しなかったことが原因でもある。高校生になってもまだ、私は私に関わること、関わらないことに関係なく、興味や探求心を持つことは滅多になかった。
「今度はどんな罠を仕掛けるか……」
隣でぶつぶつと考え込む臨也を尻目に、臨也だって球技大会中は女の子にいいだけ騒がれていたクセに、と私は密かに石ころを蹴飛ばした。