過去編 | ナノ


入学式の次の日、私が教室に入ると、話題は臨也と金髪のあの人で持ち切りだった。隣に立つ臨也はいつものように笑顔を貼り付けている。クラスメイトはそんな臨也を少し遠目に見ているようだった。ひそひそと小声でやり取りされる会話に、私も顔を顰めたその時。


「おはよー、折原くん。昨日は死ななかったかい?」


廊下からひょっこりと顔を覗かせたのは新羅くんだった。そのあまりな挨拶に、そういえば昨日臨也を連れて行ったのは、この目の前で笑顔を浮かべる彼だと気付いて駆け寄った。その後ろから、臨也がため息混じりについてくる。新羅くんは臨也の身体のあちこちに擦り傷や打撲があることを知らないだろう。今朝も背中に湿布を貼ってあげたばかりだ。


「死にはしなかったけど。…なんだよ、あいつ。どうやったら人間があんな化け物に成長するわけ?」

「僕も驚いたよ!まさかあそこまで筋肉が成長していたなんて!彼は筋力が強いだけじゃない、強靭な肉体の持ち主だからね。中学校の3年間、彼を観察できなかったことが悔やまれるよ」


目を輝かせたりがっくりと肩を落としたりと忙しい新羅くんに、私はいつもと同じように半分聞き流しながら尋ねた。


「あの、私も昨日少しだけ見たんだけど、新羅くんが臨也と引き合わせた金髪の彼ってどういう人なの?どうして臨也と喧嘩したの?」

「ああ、空谷さんも見たの。彼は平和島静雄。小学校の同級生なんだ。あの馬鹿力は昔からでね、教壇を投げ飛ばしたこともあったっけ。それで、ええと…喧嘩の原因だけど、ただ単に反りが合わない、ってことじゃないのかな。お互い気に入らなかったみたい」


ねえ、と新羅くんは臨也に視線を移すけど、臨也は不機嫌そうに目線を逸らしただけだった。
気に入らないというだけで、あんなに破壊力満載な喧嘩に発展してしまうのだろうか…いやきっとそれは平和島くんが少し変わっているからだろう。無理矢理自分を納得させて、私はそうなんだと頷いた。


「でも静雄くんは根は優しい奴だから、理由も無しに喧嘩はしないよ」

「理由も無しにサッカーゴール投げるかよ」

「理由も無しにナイフで切りつけるのもどうかと思うよ」

「気に入らない。あいつもそう言っただろ。それが理由さ」

「それがまかり通るなら静雄くんにも正当な理由があったということになるね」


珍しく臨也が口で負けている。まだまだその平和島くんを掴めていないのかな。
それよりも、私は根は優しいという一言が頭に引っかかっていた。どんな性格なんだろう。大きな力を持つ人の気持ちなんて想像できないが、だからこそ少し話してみたくなった。
その考えを読み取ったように、臨也が私の腕を握る。


「奏、昨日も言ったよね?あんな化け物に興味を持ったら駄目だ。関係を持つだけ損だよ。だから会いに行こうなんて考えないで」

「会いに行こうだなんて……」

「駄目だ」

「珍しいじゃないか。君がこんなに空谷さんを気に掛けるとはね」

「もういいから教室帰れよお前。あと変なこと奏に吹き込まないでくれる?」


はいはい、と適当に返事をして新羅くんは教室へ戻っていった。臨也はため息をついて腕を掴む手の力を緩める。
なんだか、平和島くんと関わってから臨也は少し変だ。前は私が何しようが気にしていなかったのに。
隣で再び愛想笑いを振りまき始めた臨也の横顔は、なんとなく今までと違って見えた。



(君の心を射止めるのは)


俺でなくてはならない。







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