来神高校の入学式とホームルームを終え、私は早速クラス委員としてプリントを職員室に届けようとしていた。高校は中学校よりも広く、まだ慣れないうちは迷ってしまいそうだ。
と、いうか。
「迷った……」
1年生の教室と職員室がこんなに離れているとは思えない。もっと単純な構造にしてくれればいいのに、と私はひとりごちた。
こんなことになるなら、臨也にもついて来てもらえばよかったな。臨也は知らない場所でもすいすい進んでいってしまうのだから。
そんな臨也は、ホームルームが終わるやいなや新羅くんに連れ出されてしまった。私が一緒に帰ろうと声をかけたその時、新羅くんが紹介したい人がいるんだとか言って手を引いて行ってしまったのだ。せっかく臨也と同じクラスになれたのに、初日から帰りは別々なんだな……。
色々な気持ちを含んだため息をひとつ落として、私は何気なく窓の外を見やった。その時だ。
ガシャアアァァン……一一。
ものすごい轟音と共に、校舎の影から土煙が
上がった。あっちはサッカー場やテニスコートがある、部活動専用のグラウンドだったはず。一体何があったのだろうとその土煙を見つめていると、やがて黒い人影が見えた。って、え、あれ臨也?!どうして!
そして、校門に向かって走る臨也の後ろから、信じられない物が飛んできた。
「サッカーゴール…?」
正しくその通り、ひしゃげてはいるものの、白いサッカーゴールが校舎の影から転がってきたのだ。もうどうなっているのか訳が分らない。臨也に当たっていないだろうかと心配していると、どうやら無事なようで、校門を抜けるところだった。
ほっと一息つき、このサッカーゴールの原因はなんだろうと煙の方へ目をやる。
その瞬間、私は息をするのを忘れていたように思う。土煙が薄くなり、その合間から覗いたのは。
「……きれい…」
綺麗な、金髪。
風にさらさらとなびくその髪は、太陽の光を浴びてキラキラと光って見えた。
背の高いその人は、転がったサッカーゴールを邪魔そうに片手で投げ捨て、臨也と同じく校門を抜けて走っていってしまった。
私はといえば、今見たその人の印象が強すぎて、しばらくぼーっと突っ立っていたのだけれど。
そんな私がたまたま通りかかった先生に事の一部始終を説明してくれと頼まれるのは、そのすぐ後のことだった。