「というわけで、平和な日々はここで終わるのでした」
パタンと中学時代のアルバムを閉じて、一息つく。だって本当のことだ。春休みが明けて高校の入学式があったその日から、来神高校は決して平和だったとは言えないだろうから。
「シ、シズ…?大丈夫か……?」
「…………」
「す、少し休憩しましょう!ね!」
黙りこくっている静雄の表情に、デリックがひくりと頬を引きつらせる。その様子に日々也までもが取り繕うように笑みを浮かべた。それも無理はない。だって静雄さん、あなたの後ろに真っ黒なオーラが見えますこわいです抑えている所が余計に!
自分で思い出話を語っておいてなんだけど、臨也と付き合った時の話をする必要もなかったかなあと少し後悔。
そんな私の肩越しに、臨也がにやにやと笑っている。
「なぁにシズちゃん。もしかして俺が奏と付き合ってたこと、知らなかったわけじゃないよねぇ?」
「うるっせぇな!自分の嫁が昔付き合った男の話聞いて気分悪くならないヤツがいんのかよ」
嫁、という言葉にじわ、と顔が熱くなる。自分が静雄のことを旦那とか夫とか言うのは少し慣れたけど、静雄に嫁と言われるのは初めてに等しい私にとってはまだまだ慣れないワードだ。
「静雄、実はプリンを買ってあったんだ」
「えっ津軽ほんと?!やったあ!」
「ぷりん、ぷーりーんー♪しずお、ぷりんあるって!」
「えっ、あ、ああ、よかったな」
「高校からは静雄も奏と一緒だったんだろう?」
「そ、そうだな!臨也だけじゃなくて、静雄の話も聞きたいなー俺!」
津軽の助け舟に、デリックが畳み掛ける。イザにゃんとサイケも無意識ながら静雄の不穏な空気を少し和らげることに成功したみたい。イザにゃんは臨也から静雄の膝の上に移動すると、津軽と日々也が持ってきたプリンの蓋を開けてほしいと静雄にお願いしていた。ああ可愛い。安定の可愛さ。
「しずおと、ぼくの、ぷりんのいろちがうよ?」
「ん、お前のはカスタード、俺のはチョコプリンだからな」
「んー……」
「食うか?」
「うん!」
大好物のプリンを頬張りながらほわほわとお花を散らす二人に思わず頬が緩んでしまう。
プリン一つでこんなにも変わるのか……さっきまで黒いオーラ出してたくせに。
「プリン、静雄さんとイザにゃんとサイケの分は2つ買ってありますから」
こそりと日々也が耳打ちしてくれた内容に、小さくため息をついて、ありがとうと返した。
「高校時代からは怒涛の日々が始まるんですね」
「んー。私はそんなに。やっぱりどの場面でも主役はこの2人だったからなあ」
正直、小学校や中学校に比べたら高校の写真の数はぐっと減っているんだけど、その代わり、写真が無くても忘れられない思い出は一番多い気がする。
中でも強烈な思い出は、やっぱり入学式だったなあと私もプリンを食べながら過去に思いを馳せた。