「アルバム?」
屋根裏部屋で何やらガタンゴトンと音を立てていたデリックが持ってきたのは、ボックスに入った古いアルバムだった。5冊まとめて入ったアルバムの背表紙には、丁寧に『生後〜幼稚園』、『小学校1年〜3年』などとタイトルが書かれている。
「そ。一昨年に大掃除した時、奏と臨也が見ちゃダメって言ってただろ?去年の大掃除でまた見つけてさ、やっぱり見たいなって思って」
「う…うーん……」
ダメ?と首を傾げるデリックに腕組みをして唸る私。そんな私たちを見ていた静雄が、デリックの手からボックスを取り上げた。二人でぽかんとその様子を見ていると、なんと静雄さん、勝手にボックスからアルバムを一冊引き抜きました。慌てて奪い返そうとするけれど、私の身長が静雄に勝てる訳はなく。
「なぁ、俺も見たい」
「でも……、」
「おれも見たい!小さい時の奏、きっとかわいいよ」
「かなでも、ちっちゃい?ぼくとおなじ?」
「ふふ、そうですね。奏さんも、イザにゃんみたいな時があったんですよ」
「まあ…あくまで奏が構わないのなら、だがな」
「なー奏、ちょっとだけでもいいから!」
一気に畳み掛けられて若干気圧される。みんながあんまりにもじいっと私を見つめるから、仕方なくため息を一つ落として手を差し出した。
「静雄、アルバム返して。いいよ、ちゃんとみんなに見せるから」
「「ほんとに!?」」
「うん。少し恥ずかしいけど、こんなに頑固になる必要ないもんね」
静雄からアルバムを受け取って、一冊目を開く。一ページ目にはたぶんお父さんが書いたのだろう、私の生年月日と名前がさらさらと綴られていた。
てっきりみんなそれぞれのアルバムを勝手に見るのかと思ったら、案外そうではないらしい。私の周りに集まってアルバムを覗きこんでくるものだから、私はみんなが見やすいようにテーブルの上にアルバムを広げた。
「なぁなぁ、小さい頃の奏ってどんなだったんだ?」
「え?うーん、別に普通の子供だったと思うけど」
「それは俺に任せてよ」
突然上から声が降りかかってきたので、素直に上を見上げると、そこにはどこか自慢気に笑う臨也の姿があった。あれ、今日はずっと仕事で、夜まで部屋に引き籠るって言ってたのに。
「せっかく楽しそうなことやってるのにみんなと引き離されるのもなんだか嫌だったからね。ちょっとはまってみようかなって、無理やり終わらせて来た」
「でも、前はすげー嫌そうだったよな。いいのか?」
「別にいいよ。なんだか、奏が結婚してから色んなものに踏ん切りがついたんだ」
みんなと同じように腰を落ち着けて、臨也は薄く笑った。…ほんと、変わったなあ。
「それに、幸いここにはもう一人語り手がいるからね。ね、シズちゃん?高校からだけど」
それまでは俺に任してよ、と臨也は軽く胸を叩いた。
「さあ、では始めようか。奏がどのような人生を歩んできたのか、その記録を辿る物語を!」
そんな大袈裟な…と、思ったけど、イザにゃんやサイケ、デリックに日々也の期待に満ちた瞳に、まあこの子たちが楽しめるならいいかな、なんて許してしまう自分の方が大きくて、私は黙ってアルバムのページを捲った。
それは彼女だけじゃない。
彼女と共にいたヒトたちの、物語。
2012.01.01