「え、え、じゃあ臨也ってわざと罪を被ったのか?!」
デリックの驚いた様子は、まるで当時の私を見ているみたいだ。そうだよ、と頷く臨也に、私と静雄を除く全員が首を傾げた。
「何故だ?俺にはおおよそ見当もつかないが」
「あいつが…新羅が羨ましくなったのさ。俺は人間観察を始めて、人間の特性をある程度把握していた、つもりだった。恥ずかしい話、自分は周りと少し違う、特別な人間のように感じていたんだ」
津軽の問いかけに、臨也は自嘲するような笑みを浮かべて答えた。自分の次元では捉えきれない、岸谷新羅という存在。その思考に、行動に、臨也は嫉妬した。だから、非日常に自ら足を踏み入れるために、奈倉くんの罪を被ったのだ。
「あの時の新羅の行動は確実に俺の性格に影響を及ぼしたし、ターニングポイントのきっかけになり得るものだった。俺は罪を被ったことを後悔してないよ。俺を形成する一つの大きな要素だからね。……軽蔑した?それとも引いたかい?」
早口で捲し立てるように話した後、臨也はそれまで上げていた目を伏せた。後悔はしてないと言ったけれど、臨也だって自覚してるんだ。自分が歪んでるってこと。でも今さら自分自身を否定する気はないし、したくもないこと。だから臨也の歪みはただただ純粋なんだ。自分のしたい事をするだけ、興味のあるものを弄りたい、実験したい、それだけ。
イザにゃん達が現れてから、少しは変化したのかもしれないけれど。
「てめーがイかれてることなんて今更だろーが」
「静雄?」
まるでなんともないように静雄が言ったものだから、びっくりして視線を向ける。静雄は本当になんでもなさそうに、ん?と首を傾げていた。……まあ、静雄はある程度歪み切った臨也が第一印象だったから、今更だと言うのも仕方ないのかもしれない。
「確かに。過去の臨也さんがどうあれ、僕たちは今の臨也さんと暮らしているんですから、関係ありませんね」
「んー、話はよくわからないけど、おれ臨也のこと好きだし、別に昔したことは気にしないよ!ね、津軽もそう思うでしょ?」
「そうだな」
日々也の言葉にサイケも津軽も、デリックも頷き、津軽がポンポンと臨也の頭を撫でる。見慣れてしまった光景に、自分でも笑みが零れるのがわかった。ああ、幸せだなあ。ねえ、臨也。
「いざや、かぞくいるよ?さみしくないよ。みんなね、いっしょなんだよ」
たぶん話のほとんどを理解していないであろうイザにゃんも、臨也の寂しそうな顔を見てか、その頬に小さな手を当てた。ふふ、そうだよ。臨也、いますごく寂しそうな顔してる。
臨也は一瞬だけくしゃりとその顔を歪ませてから、また困ったように笑った。
「参ったなあほんと。みんな、ありがと」
「いいってこと!さて、続き続き〜……というか、最早写真の出来事だけじゃなくて、昔話自体に興味出てきた!」
もっと聞きたい!と身を乗り出してきたデリックに、わかったと頷く。中学時代を思い出すために、私は臨也と目を合わせて記憶を巻き戻し始めた。