中学校の入学式も無事終わり、軽い自己紹介を含めたホームルームの時間。誰もが無難な自己紹介をする中に私の幼馴染みの姿は、ない。
入学早々、臨也とはクラスが離れてしまったからだ。
来神は小学校、中学校、高校、大学と進むことができるエスカレーター式の私立校だ。周りを見渡せば小学校からの友達ばかりで、クラスに十人ほどしか新しい顔はいなかった。
その新しい顔と、臨也は早速話をしたらしい。ホームルームも終わり、下校する生徒に紛れて臨也はいた。私のことを見つけると、久しぶりに本当に楽しそうに笑いながらこちらに走ってくる。
「どうしたの?気が合うお友達ができた?」
「全然違うよ。ただ、気になるやつを見つけたんだ」
「……?」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、上機嫌で隣を歩く臨也に私は首を傾げるしかない。
……でも、まあ、臨也が楽しんでるならいっか。小学校を卒業する頃には毎日つまらなさそうな顔をしていて、こんな顔で笑うことはほとんど無かったから。
まだ臨也を本当の意味で理解していなかった私は、純粋にその変化を嬉しく思うだけだった。
それから臨也は他のクラスにもちょくちょく顔を出すようになった。誰かについて聞いて回っているらしい。休み時間に同じクラスの友達がちょろっと話してくれた。
「折原くん、だっけ?私あの人から岸谷くんのこと聞かれたよ」
「岸谷くん?」
「小学校が一緒だったんだけど、かなり変わった人でね。シズちゃんて人とよく一緒にいたけど……」
「シズちゃん?」
知らない名前がぽんぽんと飛び出して私の頭の上にははてなマークばかり。ただひとつ分かったことは、臨也は『岸谷くん』について、母校が同じ生徒から聞き込みをしている、ということ。
その岸谷くんは臨也と同じクラスみたいだけど、まだ自分のクラスの顔も覚え切れていない私には他クラスの人なんて一切わからなかった。
「(岸谷くん、かあ……)」
ぼんやりと考え事をしていたからかもしれない。曲がり角で人とぶつかってしまった。日直で先生から持ってくるよう指示されていたプリントが宙を舞う。
「あっ、ごめん!」
「ううん、大丈夫」
制服についている校章バッジの台紙が同じ色で、同じ学年なんだとわかった。黒縁眼鏡をかけた彼は、とても真面目そうで、散らばったプリントを集めるとじゃあ、と手を上げてどこかに行ってしまった。
この出会いもまた、運命。