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ここ数ヶ月、誰かに見られているような気がする。
外はもちろん、家の中まで視線を感じる。気味が悪いことこの上ない。


「どうしよう、臨也…」

「確かに心配だね。俺の方でも少し調べてみるよ」


黒基調のシックな部屋で、高校からの付き合いである折原臨也はいつも通りのニヒルな笑みを浮かべた。臨也のことは昔からよくわからない。彼が考えていることも、突飛な行動の真意も、私は彼のことをあまり理解はしていなかった。それでも、別に付き合いにくいとは思ってはいない。だから、未だに友人という関係であるのだけれど。


「なんか、ごめんね。仕事あるのに」

「いいんだ。他でもないなまえの頼みだからね」


だから、私は安心して臨也に笑顔を向けた。










異常に気付いたのは、それから3日後のこと。以前にも増して、視線を感じるようになった。会社の中でも、外を歩いていても、どこか居心地が悪かった。なんだか落ち着かない。唯一安心できるマンションでさえ、牢獄のように冷たく私を拒絶しているように見えた。その内、私は体調を崩していた。


「……まったく、君も無茶するなあ」


呆れ混じりのため息をつかれて、私は言い返せない。会社から帰る途中に新羅に会った。久しぶりの再会に、体調不良も少しは和らいで、話をしていた。すると、今まで纏わりついていた嫌な視線が私から外れたのだ。久しぶり、本当に久しぶりの解放感に、私はすっかり脱力してしまった。

それからマンションまで運んでもらい、診察と少しの看病をしてもらっているこの状況である。
新羅は診察を終えると、私の部屋をざっと見回して、本棚やティッシュ箱などを漁り出した。


「新羅、何やって…」

「なーんか嫌な感じがするんだよねぇ。ああほら、」


あったよ、と振り向いた新羅の手には小さな機械が2つ。見覚えのないそれに、私は首を傾げる。


「何それ」

「小型の隠しカメラと盗聴器さ。心当たりある?」


尋ねられて、私は首を横に振るしかなかった。本当に心当たりがない。けれど、もしかしたら今までの嫌な視線と関わっているのかもしれない。私は新羅に、今までのことを話した。


「そうだったの。きっと君は監視されているんだね」

「監視?」

「うん。それに、今日君と話している時にものすごい殺気を感じたんだよ。もしかしたら外でも直接見張られてるのかも。それより…なまえは心当たりがないと言ったけれど、実は、私にはこれに心当たりがあるんだ」


新羅はいつもより真剣な顔になって口を開いた。あまり見せないその表情に、ごくりと唾を飲み込む。期待と不安が入り交じった複雑な気持ちで、新羅の言葉を待った。


「これ……臨也が好んで使うものだよ」

「…え?」

「以前僕の家にも仕掛けられていたんだ。もっとも、その時は、セルティを調べるためだったんだけどね。なまえの場合、理由がわからないからなんだか危険を感じるよ」


まだ臨也の仕業だと決まったわけじゃないけどね、と肩を竦める新羅。でも、私にはどこか確信めいたものを感じた。新羅は完全に臨也の仕業だと思っている。

私はと言えば、いまいち理解できなかった。臨也が?私を?監視?わからない。意味がわからない。……いや、わかってたじゃないか。私は昔から、臨也のことなんて何もわかっていなかったということは。


「じゃあ、僕帰るね。鍵かけるの忘れないで。明日また様子見に来るよ」


新羅は部屋の中にあるカメラや盗聴器を出来る限り見つけて処理してくれた。その多さに、風邪とは別に吐き気を覚えた。ぐずぐずの黒い塊が入った袋を持って、新羅は部屋を出て行った。言われた通り、すぐに鍵を閉める。

ベッドに倒れこんだ私は何も考えることができなかった。頭がぼーっとして、うまく働かない。だから、臨也がどうして私の部屋の中にいるのか、まったく理解することができなかった。


「やぁ。風邪ひいたって聞いたからお見舞いに来たよ」


ガサリとコンビニの袋を持ち上げて臨也は笑う。その袋からはゼリーや清涼飲料水が透けて見えていて、臨也が親切心から私を見舞ってくれたのは一目でわかるはずなのに、何故か素直に喜ぶことができなくて。


「……いざや、」

「なに、どうしたの?」

「聞きたいことが、あるんだけど」

「…………」

「私の部屋からカメラや盗聴器が見つかったの。…それが、臨也がよく使うものと一緒だって、新羅が」


一瞬、何が起こったのかわからなかった。ああもう、今日はわからないこと尽くしで嫌になる。ただ、いつの間にか臨也は私に馬乗りになっていて、その笑顔は今まで見たどんなものよりも歪んでいた。


「新羅、ね。本当にあいつは何様なんだろうね。なまえと話をするだけじゃ飽き足らずべたべた触りやがって。果てには部屋にまで入って、俺が苦労して仕掛けたものをほとんど壊しやがった!」

「い、ざや…」

「ああそうさ。新羅の言う通りだよ。カメラも盗聴器も、仕掛けたのは俺。でもそれは別に監視しようとしたわけじゃないよ?愛故の行動なんだから」


ぺらぺらと話を続ける臨也を見つめることしか、私にはできない。ただ、この人は誰だろうと、そんな他人行儀なことが頭によぎった。


「愛する人間をより知りたいと思うのは当然だろう?俺、気付いたんだ。俺はなまえのことが心の底から好きなんだって!そうしたらなまえのことを知りたくなって、もっと愛したくて堪らなくなってね。だからなまえのこと、見てたよ。聞いてたんだ、毎日毎日毎日!だけどなまえが最近嫌な視線を感じるって言うから。そんな奴がいたら許せないだろう?だから俺いつもよりなまえを見てたんだ。なまえを守るためにね。だから今日もほら、またカメラの数を増やそうと思って持ってきたんだ。新羅に取られても、これで俺はまたなまえを守ってあげられる!」


私を見舞うために持ってきたコンビニの袋から、臨也はゼリーでも飲み物でもなく、見覚えのある機械を取り出した。さっき新羅が壊したばかりの、あの機械を。
でも臨也はその機械を床に投げつけた。機械は、カーペットに当たって鈍い音を立てる。


「……でも、もっといい方法を思い付いたよ」


空になった手が私の両手首を押さえつける。こんなところで男らしさを感じるなんて、ときめく余裕もない。
ぐっと近付いた綺麗な顔よりも、どこか落ち込んだ光を放つ瞳の方が私の心を捉えて離さなかった。


「なまえを、檻に閉じ込めてしまえばいいんだ。…俺の、すぐ傍でね」


なんでだろう。ついさっきまで臨也のことは何一つわからなかったのに。

テーブルにある作った覚えのない合鍵とか、

部屋の隅に置かれた大きなスーツケースとか、

臨也がこれから私をどうするつもりなのかとか、

何故か今だけは、理解できたから。だから、私の心はこんなにも不安と恐怖に支配されているんだと、狂った瞳を見ながらそんな他人行儀なことを思った。






どうしてわからないかなあ。

こんな歪んだ愛情なら、わかりたく、なかった。










▽▽▽▽▽
ゆいさまリクエスト、相手が臨也で、狂愛か切な系でした!
狂愛を書かせていただいたんですけど…臨也のヤンデレは書いててすごく楽しかったです!←
本当はバイオレンスな一面も書こうと思ったんですが、臨也の気味悪さを出したくてこんなお話になりました。

ゆいさま、ありがとうございました!