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「なまえ!」


呼ばれて振り向けば、靴箱から外靴を取り出している臨也がいた。今は夏。あの短ランは脱いでいて、ワイシャツ姿になっている臨也は悔しいけどやっぱりかっこいい。自慢の彼だ。


「ね、これから予定ある?」

「ないけど」

「じゃあ一緒に帰ろうよ」


私が返事をする間もなく右手を取られた。まあ、私の用事がない時点で一緒に帰ることは決定事項なのだけれど。
自転車の後ろに座って、ちょっとだけ躊躇ってからその白いワイシャツを掴んだ。


「腕、前に回してくれてもいいのに」

「恥ずかしいもん…」


クツクツと喉の奥で笑う声が聞こえる。だってそうでしょ?腕を回すということは、その分臨也と密着するわけで…うわ、考えただけで恥ずかしい…!
一人で頬を熱くする私を知ってか知らずか、臨也は突然自転車を止めた。わっと声を上げて臨也の背中に顔面直撃。…これはこれで恥ずかしい。


「どしたの?」

「ん、あれ」


臨也が指差した先には『ソフトクリーム』の文字。夕方とはいえまだまだ暑いこの街中で、それは文字通り甘い誘惑だった。


「食べたい?」

「うん」

「わかっ、た…っと!」


再びペダルを踏んで、臨也はすぐ横の公園に入った。ブランコの隣、木陰の下のベンチに座る。時折吹く風が気持ちいい。やがて、チョコとバニラ、2つのソフトクリームを持った臨也が戻ってきた。


「なまえはどっちがいい?」

「んー、バニラ!」

「えー俺もバニラがいい」

「えっ…じゃあチョコ…」

「嘘。はいバニラ」


にこりと笑ってバニラを差し出す臨也に、ちょっとだけムッとする。でも奢ってくれたのだから、文句なんて言えなくて。だから素直に「ありがとう」とソフトクリームを受け取った。うん、偉いぞ私。
はむ、とソフトクリームを頬張る私の隣に臨也も座る。おいしい!冷たい!天国!


「バニラ一口ちょうだい」

「いいよ、はい」

「ん、」

「あ、ありがと」


お互いにソフトクリームを差し出して、ぱくりと一口。チョコもおいしい。満足したのか臨也は上機嫌な笑顔を浮かべると、何気に私の髪に触れた。


「なに?」

「葉っぱ付いてた」

「ほんと?」


臨也の手の中には青い葉っぱが一枚。たぶんさっきの風で落ちてきたんだろう。臨也その葉っぱを見つめて、何やら考えているようだった。大丈夫かな。ソフトクリーム、溶けそう…って私もやばい!
溶けて垂れてきたソフトクリームを慌てて舐めとっていると、臨也は今度は私を見つめていた。


「なに?わ、もうこんなに溶けてる!臨也も早く食べた方がいいよ」

「うん。…ただ、なんかちょっとエロいなーって思っただけ」

「えろッ…!」


頑張って食べていたソフトクリームを危うく吹き出しそうになる。本っ当に何を言い出すんですかねこの残念なイケメンは。いつの間にかソフトクリーム食べ終わりそうだし。そして最後の一口、コーンのとんがり部分を口に放り込んで、すっくと立ち上がった。え、ちょっと待ってまだ私ソフトクリームとの闘いが終わってないんですけど誰かさんのせいで!


「なまえさ、ヘアピンとかつけないの?」

「あー、うん。最近は」


やっとの思いで私もソフトクリームを食べ終える。さりげなくハンカチを差し出された。…変なところで紳士的なんだから。なんていうのこれ、ギャップ萌え?いや萌えはないわ完全に。


「話聞いてないね」

「へっ?」

「だから、あっちに可愛い店あったからそこ行こう」


さ、行くよ。と実に爽やかな声と同時に手を引かれる。臨也に連れられて行ったお店は、確かに可愛らしいお店だった。女の子向けの雑貨屋さんみたい。アクセサリーは前の方にあった。

ポップなものからシックなものまでいろいろ揃っている。臨也は早速一つ手に取って、私の髪に添えた。


「うーん、何か違うなぁ」

「私には何が似合いますか折原先生?」

「ん?子供っぽいやつ」

「…あんま嬉しくない」


むくれる私にお構い無く、臨也は様々なヘアピンを手に取っては私に合わせていく。ふと私の視界に入った小さなお花が付いたピン。それに手を伸ばすと、ちょうど臨也の手と重なった。


「……これ似合うと思うよ」

「あ…そうかな」

「うん。じゃ、買ってくる」

「えっいいよ!私のだし、自分で買うよ」

「プレゼントするから」


臨也はさっさとレジに進みさっさと会計を済ませてしまった。鞄から財布を取り出しかけた私の手を握って店を出る。早速ぴり、と袋を破いて、夕日の光を反射するそのヘアピンを、私につけてくれた。


「やっぱり似合う」

「う、ん…ありがと」

「さて!そろそろ送るよ。なまえの家は門限あるからねぇ」


乗って、と自転車のベルを鳴らす臨也の後ろに座って、そして私は、恐る恐るその男子にしては細い腰に腕を回した。途端、臨也がぴくりと反応したけれど、振り向かれるのは嫌なので思い切ってぎゅうと抱きついた。


「なまえ、」

「は、早く出発してよね。私、門限あるんだから」

「……わかりましたよ、お姫様」


クツクツと喉の奥で笑う声が聞こえる。
休日のがっつりデートじゃない。ただの放課後の暇潰し程度のもの。なのに、こんなにドキドキさせられる。

あなたのことがこんなに好きだって、思い知らされるの。






放課後キューピッド

「(もう少しこのままがいいな…。よし、わざと遠回りして帰ろ)」










▽▽▽▽▽
りおさまリクエスト、学生時代で放課後デートでした!
学生臨也さんなので少しだけでも子供っぽさが出ていればいいのですが…。あと、自転車二人乗りは完全に私の固定概念が入りましたすみません(汗)。シャツの裾を握るのもいいですが、やっぱりしがみついてほしくて…!遠回りした臨也は後でどつかれればいいと思います(笑)

りおさま、ありがとうございました!