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池袋の人混みの中。しかし、俺にはまるでそこだけが切り取られたように見えた。

横断歩道を隔てたその先にいたのは、見間違うはずがない、俺の恋人であるなまえ。そして、そのなまえと親しげに話す黒ずくめの男。こちらだって見間違うはずがない、あの折原臨也だった。

なんで、どうして。
もくもくと煙のように沸き上がる疑問の数々。なまえと臨也の接点が見つけられないのだから仕方がない。あ、もしかして小学校や中学校が一緒だったのかもしれない。…その割りには、なんか、


「(友達以上…みてぇな)」


なまえがあの臨也の頭を小突いていたり、あの臨也が胡散臭くない笑顔を浮かべていたり。とにかく、なんとなくただの友達には見えなかった。
そうなるともう俺には一つの答えしか用意できない。


「…………浮気」

「ん?静雄、何した…って、おい!」


信号が青になった瞬間に走り出した。トムさんの声は聞こえたけれど、すんません右から左に通り過ぎました。
真っ直ぐ街灯のそばに立つ二人の元に向かうと、二人とも俺の存在に気付いてそれぞれ違う反応をした。なまえはにこにこ笑って腕を振り、臨也はあからさまに嫌悪感を丸出しにしている。

ムカつくのはこっちだと思いながら二人の間に立った。


「静雄!奇遇だね」

「嫌な偶然だなぁ。ホント、君は俺の邪魔ばっかりするんだから。何?そんなに俺のこと好きなの?」

「臨也、気持ちわるい」

「酷いなぁなまえ…っと、」


ミシリという音に臨也は一歩後退さる。あぁイライラする。臨也はもちろんのこと、俺の前でも平然と臨也と話すなまえにもイライラした。指先が街灯に食い込む感触など、怒りでもうわからない。けれど、俺の手に添えられた細くて小さい手の感触は不思議と鮮明だった。


「ダメだよ静雄、また街灯壊しちゃう」

「無駄だよなまえ。暴走した化け物に何を言っても、」

「臨也!いくらお兄ちゃんでも静雄のこと悪く言ったら許さないよ」


、……?は?

こいつ今なんつった。お兄ちゃん?…臨也に向かって、お兄ちゃん?ということはだ。臨也がなまえの兄貴、で、なまえは臨也の妹で…?


「あれ!?静雄!?」

「さすがシズちゃん。思考回路がショートしたみたい」

「……おい、なまえ」

「うん?」

「お前と、このノミ蟲は、どういう関係だ?」


そうだ。俺は元々このことを聞きたかったんだ。さっきと主旨は若干異なっちゃいるが、とりあえず問題はこれだからな。
なまえはきょとんとしたあと、言ってなかったっけ?と呟きながら臨也の隣に立った。


「私と臨也は双子の兄妹なの。臨也がお兄ちゃんで、私が妹だよ」

「双子?」

「そう」

「……似てねぇ」


双子ってのはクルリとマイルのようにそっくりなもんなんじゃねぇのか。少なくとも外見は。しかし二人を見れば見るほど似ていない。いや、確かに目元とかは似てる気もしないでもないが。

じっと二人を見比べる俺に呆れたように臨也はため息をつくと(一瞬血管が切れるかと思った)、人差し指をピンと立てた。


「俺たちは二卵性双生児なんだよ。クルリたち一卵性とは違ってね」

「二卵性?」

「うん。だから双子だけど性別違うし、クルリたちほど似てないの。それに私ずっと女子校だったから、みんな意外とわからないんだよね」


なまえが苦笑しながら付け足す。なるほど、そうか、兄妹…。なら……、


「浮気じゃ、ねぇのか…」

「「浮気ぃ?」」


単語を繰り返してから、なまえは再びきょとんとし、臨也は勢いよく吹き出した。…よし殺そう今すぐに。
だが街灯を引っこ抜く前になまえに頬をつねられた。視線を下げれば頬を膨らませてるくせに泣きそうななまえが、いて。


「酷いよ静雄…私、静雄しか好きじゃないのに」

「あ…、なまえ?」

「私が浮気とか、するわけないじゃん…っ」


ぼろりと涙が一雫だけ落ちる。見るからに動揺した俺はビクリと肩を跳ねさせた。頬をつねられたまま、「悪い」と言うしかない。なまえはぐすりと鼻を鳴らして、でも頬をつねる手は離してくれた。


「シズちゃんなまえ泣かして、いっけなーいんだ」

「…るせぇ」


ニヤニヤと笑っている臨也を一睨みする。とりあえず涙は止まったなまえを抱き抱えた。


「ちょっ、静雄、」

「勝手に勘違いして悪かった。…でも、その…なまえが浮気してると思ったら、俺、気が気じゃなくて。他の男なんかと一緒にいるなって思った」


つまり。
要するにだ。


「俺も、なまえのこと、なんつーか…独占したいくらいに、好きだから」

「……っ、うん」


ぱたぱたと暴れていた手足はすっかりおとなしくなって、逆に俺にしがみつくように握られた。ぽんぽんとあやすように背中を叩くと、なまえの手に力が入りますます距離が近づく。


「(とりあえず今日は、こいつお持ち帰りだな)」


そんなことを考えながら、俺は片手で倒れかけた街灯を地面に深く突き刺してやった。






今まで気にしなかった彼女の瞳は紅でした。

「あ、もしもし舞流?今夜一緒にご飯食べに行かない?」
『…なんかイザ兄からのお誘いって気味悪いからやだ!』
『異(あやしい)』
「(お兄ちゃん寂しい…)」










▽▽▽▽▽
杏さまリクエスト、静雄が夢主が臨也の双子の妹とは知らずに臨也といるところを目撃してしまい浮気と間違えてしまう、でした!
私の友人に実際二卵性の双子がいまして、確かに似てるんですけど、そんなに似てないんですよね。なので静雄も、付き合ってるとはいえ全く気付かないと思います。そして珍しく臨也がシスコンじゃない(笑)。しかしオチは彼が持っていきました←

杏さま、ありがとうございました!