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終業式。明日から冬休みという高いテンションの中、私は静雄と冬休みの予定について話していた。


「その……一緒に初詣行かねぇか?」

「いいよー。あ、新羅たちも一緒?」

「バカ。んなわけ、ねぇだろ……」


頬を赤くして語尾が小さくなる。ですよねー。逆に「うん」なんて言いやがったら私の指が折れる覚悟でデコピンしてやる。だいたい、毎年二人で行ってるのにどうして今さら照れる必要があるのだろうか。可愛いやつめ、とにやにやしていると、逆にデコピンされた。あ、意識が遠く…──。


「なまえ!?」


ふらあ…と後ろによろけた私の肩を勢いよく掴まれて揺すられる。ちょ、待ってギブギブギブまじで意識飛ぶ!


「やめろバカ!」

「いてぇ!」

「痛ぇのはこっちだバカ!」

「バカバカ言うなよ」

「ごめん」


そこは素直に謝る。あれ、でも静雄ってバカだから謝る必要ないんじゃ…あ、すみません謝るんでデコピン第2弾の準備するの止めてもらえませんか。


「君ら見てると本当に飽きないよねぇ」

「うっさい新羅。見物料取るよ」

「それは勘弁。それにしても、あんな会話してて自覚無しとは恐ろしい」

「? 意味わかんない」

「静雄も大変だねってこと」


肩を竦めた新羅を取り敢えず足蹴して心外だなぁとひとりため息をつく。静雄は弁慶の泣き所を押さえて蹲る新羅に、どこか同情のようなものを含んだ視線を送っていた。なんだなんだ、私が悪いのか。


「私ほど繊細な乙女はいないと言うのに」

「君ほどがさつな乙女を僕は見たことがないたたた」


火に油を注ぐ、とはこいつの為にある言葉じゃないのか。新羅の耳を思い切り引っ張っていると、今まで軽く放置していた静雄がいきなり立ち上がった。そして一言、「帰るぞ」と呟くと、半ば強制的に私を連れて教室を後にした。


「静雄くーん?」

「うるせぇ」


俵担ぎにされてズンズン廊下を進む静雄はもう聞く耳を持っていない。仕方なく肘で頭を勢いよく付くと、ごふっと呻いてからやっと足を止めた。まったく、連れ出すだけならともかく女性を俵担ぎは良くないよ非常に良くない!


「お前…最近暴力的になったよな」

「最近覚えた言葉は実力行使です」

「……どーりで」


ため息をついて、静雄は私を降ろした。もう慣れてしまった私たちのやりとり。幼なじみだからという理由で無理矢理済ませている仲の良さ。その先なんて私は考えられない。今までも、これからも、静雄は幼なじみ以上で以下でもないのだから。





そして、とうとう、そんな考えをぶっ壊す出来事が起こってしまった。

それは元旦。神社の前の人込みに紛れて、私と静雄は二人、歩いていた。


「すっごい人」

「だな。はぐれねぇように、ん、」

「お、なんか恋人みたい」

「っ……!」


差し出された手を素直に握る。楽観的に呟いた言葉に、静雄は俯いてしまった。こういう純情なところが静雄は可愛くて仕方ない。もっともっと苛めたくなってしまう。
どうしよう、指を絡めたりなんかしたらどんな反応するかな、なんて考えていたら、いつの間にか目の前に賽銭箱。繋いだ手を一旦離し、小銭を入れる。静雄と二人で手を叩き、お願い事を心の中で唱える。


「っよし!」

「おみくじ引こうぜ」

「うん。さて静雄くん、君は何をお願いしたのかな?」

「……、別に」

「教えてよー」

「はあ……………」


いつもより盛大なため息をつき、静雄はくるりと私に向き直った。なんだか改まった態度に首を傾げる。


「いいか。一回しか言わないからよく聞けよ」

「うん…?」

「なまえと幼なじみ以上になれるようにって。付き合えますようにって、お願いした」


至極マジメな顔をしている静雄には申し訳ないけれど、私はその言葉を頭で処理するまでに結構時間が掛かってしまった。

幼なじみ以上とか、いきなり言われても困る、というのが正直な感想だ。確かに静雄は私の特別ではある。ただ、それが恋なのかと言われればわからない。何分今まで恋をしたことがなかったから。


「好きだ。今までただの幼なじみとして接してきたけど…今年はもう、そこから一歩踏み出そうって決めた」

「え、え?」

「なまえの返事、待ってる」


どうしよう、でも、えええ?

もしこのドキドキが、静雄と同じものだと言うのなら。もしかしたら、私は静雄に答えられるのかもしれない。でも……─。


「ごめん。自信が、ない」

「……」

「まだ、わからない。好きっていう気持ちが、まだ。だから、わかるその日まで、待ってて欲しい」

「そう、か。なら、待ってる。いつまでも」

「ありがとう」

「ん……、じゃあ今度こそおみくじんとこ行くか」


ぐいっと腕を引かれて巫女さんのところへ行く静雄の顔はどこか明るくて、私はもしかしたら静雄の願いも私の願いも叶うかもしれないと、ちらりと神様が鎮座する賽銭箱の向こうに目をやった。






今年こそ、恋人ができますように!

「なまえ、甘酒って酒なのに俺らも飲めるんだぜ」
「(ドヤ顔…どうしようこいつバカだ)」










▽▽▽▽▽
兎月さまリクエスト、来神設定、相手は静雄で甘ギャグでした!
ギャグ要素が少なくてすみません…(><)!!
そして甘いのか切ないのかよくわからない展開に…!静雄がどうにか頑張っている姿を書きたくて、こんなお話になりました。

兎月さま、ありがとうございました!