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「……雪だ」


電車から降りた津軽がほう、と白い息を吐き出しながら呟いた。津軽の言う通り、目の前には雪の積もった道路。それに、頭上からはひらひらと大きな雪が舞っていた。


「ふふっ、こんなにたくさんの雪見たことないでしょ」


私たちはいま、本州最北端の県に来ている。ちなみに、私の地元です。
都会で生まれ、東京から出たことのなかった津軽が初めての旅行地に選んだのが、ここだった。私が生まれ育った土地というのと、津軽の名前にも入っている『津軽海峡』を見たいということが理由らしい。ま、私は津軽と一緒にいられるならどこでもいいんだけどね。

それにしてもすごい雪。久しぶりに帰省してみれば、やっぱり自分の故郷は雪国なんだということを思い知らされた。はふ、と白い息を吐き出して、隣に立つ津軽の顔を覗き込む。


「寒くない?」

「ああ。なまえがくれたマフラーと手袋があるからな」


そう言って紺の手袋でマフラーを掴んだ津軽に、私は少し照れながらそっかと頷いた。冬仕様の着物を着て、さくりさくりと雪の中を歩く津軽はなんというか…まるで役者さんみたい。すごく様になっている。


「……なまえ」

「なに…っわ、」


答える間もなく踵がつるりと滑り、私は思い切り後ろへ仰け反った。やばいっ、と目をぎゅっと瞑る。けれどお尻を付くことはなくて、代わりに肩と腰に腕が回されていた。誰が助けてくれたかなんて、すぐに分かる。ただ恥ずかしくて目を開けられません…。


「そこ、氷が剥き出しだって言おうとしたんだが…一足遅かったな」

「あ、ありがとう」


恐る恐る瞼を上げれば苦笑する津軽の顔。感謝しながら、かーっと顔に血が上る感覚を覚える。くそう、かっこいいなあ…。

それから私たちは、気を取り直して再び歩を進めた。それにしても……雪がない春から秋にかけてならともかく、冬は行くところが限られてしまう。津軽は私に案内してほしいと言ったけど、私にとってそれは結構難しい課題だった。


「(でも、少しは楽しそう、かな?良かった…)」


予約していた旅館に荷物を置いて、近くにある水族館の中で興味深げに水槽を覗く津軽を見て胸を撫で下ろす。この水族館は私が小さい頃から来ているところだから、なんだか自分の一部を知ってもらったみたいで嬉しい。


「津軽は、海の生物に例えるとクジラかなあ」

「ん?」

「大きくて、おおらかで、とても愛情深いの」

「そうか…。じゃあなまえは……この、カクレクマノミ」

「どうして?」

「可愛いから」


即答。もっと他にないの、と言いたいけれど言葉が出なくて、私はまるで魚のように口をぱくぱくと開閉していた。きっと狙ってやってはいない。

この天然タラシ!と心の中で悪態をついて、私はとりあえずくるりと向きを変えて歩いた。後ろから「どうした?」ととことこ付いてくる津軽にちょっとため息。


「なまえ、」

「イルカショー見に行こう」


照れ隠しにそう言うと、津軽はああと返事をして私の手を握る。おっきくてあったかい。大好きな手、しやがってぇ…。

なんとも理不尽な文句を尚心中で呟きながらも、私は津軽の手をぎゅっと握り返した。



それからも私たちは小旅行を楽しんだ。水族館に行った次の日には博物館や美術館に行ったり、お土産を買ったり。津軽は初めて見るものの連続で、普段の彼からはちょっと考えられないくらい興奮して、私にあれは何これは何と質問した。
その度に、私は故郷を誇らしく思って心がほっこりと温かくなった。たぶん、津軽だから嬉しいんだと思う。大好きな津軽に、大好きな地元を好きになってもらえることが嬉しいんだ。


「……これが、津軽海峡」

「うん。津軽のイメージの原案みたいなものだね」


旅行最終日、私たちは二人で本州最北端の地に立っていた。冬の海は荒れていて、海風とちらちら降る雪が容赦なく私たちを襲う。その中で凛と立つ津軽は、どうしようもなくかっこいい。


「迫力があるな」

「まあ…今日はちょっと天気悪いし、荒れてるから」

「でも、逞しい」

「そうかな」

「ああ。……なまえ」

「ん?」

「愛してる」


すっと視線が海から私に移る。津軽がなめらかにするっと出した言葉は、私の耳に入るのに幾分時間が掛かって、私はしばらくフリーズしてしまった。


「俺もこの海みたいに…なまえを守れるくらい、逞しくなるから。これからもこうして、二人でどこかに行こう」

「え……う、ん」


ぎゅっと握られた左手が熱い。ううん、左手だけじゃない。寒さなんて吹き飛ぶほど、身体中が熱で火照っていた。ちゅ、と頬に口付けられる。それからまた近付いてくる唇に、私はそっと目を閉じた。瞼の裏に、雪の白と海の青さを…津軽をしっかりと焼き付けて。






旅行先でもあなたは変わらず

「かっこよくて天然なんだから……」
「だったらなまえも可愛いままだな」
「…………ッ!!」










▽▽▽▽▽
咲さまリクエスト、津軽と一緒に地元に旅行へ行き津軽を案内する、でした!
咲さまと私が同じ地元なので思い付く限り観光させようと思ったのですが…すみません知識不足で…っ!ただ、水族館は入れさせていただきました。だ、大好きなんです←
どこかふわふわしたお話になりました!津軽は天然タラシなので(笑)、無自覚な感じに…。

咲さま、ありがとうございました!