洗い物をしていると、半べそをかいたサイケにくいくいと裾を引っ張られた。さっきまですやすやお昼寝していたのに、一体どうしたんだろう。
「どうしたの、サイケ」
「うぅー…なまえちゃん…」
「言わなきゃわかんないよ」
「つがる…いないの……」
うあぁ、と、とうとう泣き出したサイケに気付かれないよう小さくため息をつく。あちゃ、言うの忘れてた。津軽は今買い物に出掛けている。サイケは事前に津軽が出掛けることを知らせないと、こうして泣き出してしまうのに。
「ぅあー…う、ぐすっ」
「よしよし、泣かない泣かない。すぐに帰ってくるから」
「つがる…つが、うぅ…」
宥めはするけれど、これはどうも泣き止んでくれそうにない。困ったなあと何か気を引くものを探すために視線をさ迷わせたところで、リビングにデリックが入ってきた。……ちょうどいい。
「デリック、ちょっと」
「ん?」
小声で彼を呼び、サイケの肩を叩く。
「ほら、デリックに遊んでもらいな?」
「……デリック、津軽じゃないもん」
「そりゃそうだけど」
「デリックなんて津軽とおんなじ顔したチャラ雄だもん」
「そりゃそうだけど」
「オイ。てかサイケ、そんな言葉どこで覚えてくるんだよ」
「津軽とおんなじ顔してるくせに、チャラチャラしないで!」
「しないで!」
「ん!?待った待ったなんかおかしい!おかしいよ!?」
いつの間にかデリックが標的になっていた。おや、勘違いしないで欲しい。サイケは至って真剣です。私は完璧おふざけです。
サイケは更に「デリックのばかぁ!!」と完全なる八つ当たりをすると、ますます泣き出した。困った。泣き止ませるためにデリックを呼んだのに、これじゃ逆効果じゃないか。デリックのばか。
「いや、俺なんにも悪いことしてないからな!?」
「なんだか騒がしいと思ったら…どうしたんですか?」
リビングにひょっこりと顔を出したのは、比較的大人しい日々也と月島。二人は泣いているサイケと、そのサイケを抱きしめている私、そしてわたわたするデリックを見て眉をひそめた。そんな二人を見てデリックは冷や汗をかいている。そんなデリックを見て私は面白いことを思い付いた。この子たちだからできることだよね。
「デリックがサイケを泣かしちゃって」
「は?」
「デリックが津軽と同じ顔でサイケに酷いことしたから」
「ごっ、誤解だって!!なまえ、この二人が信じるの知っててわざと、」
「……言い訳するんですか」
「そんな…デリックさん、いい人だって信じてたのに」
日々也の瞳は冷たく細められ、月島はショックを受けたかのように涙目になっていた。うん、実に素直でいい子たちです。
とはいえ、このままでは流石にデリックが可哀想なので二人の誤解を解こうと私は口を開いた。瞬間。
「ただいま」
「津軽っ!」
買い物から帰ってきた津軽が日々也たちの後ろからひょっこり顔を出した。腕の中で顔を綻ばせるサイケ。ほんのり頬を染めて瞳を輝かせるその表情は、親の帰りを待ち侘びた幼い子供そのもので、思わず笑ってしまった。
そこで上手く収まればよかったのだけれど。
「津軽、聞いてください!デリックがサイケに酷いことをして泣かせたんです!」
「サイケさんだけじゃなく、なまえさんまでですよ…!」
「えッちょ、つっきー、なまえはちがっ、てか要らんこと吹き込むな天然コンビ!」
「そうか……デリックがサイケとなまえを泣かせたのか…」
野菜やお肉が詰まったエコバッグを置いて、津軽はゆらりと拳を作った。心なしか後ろに黒いオーラが見える。同時にデリックの未来も垣間見た気がします。このままじゃあ確実にデリックが想像通りになりそうなので、私は再びネタばらしをしようとした。
のだけれど、またも私の言葉は紡ぎ出されることはなく。
「君ら、いい加減にしなよ」
「「ろっぴ!」」
津軽のさらに後ろから発せられた声は明らかに苛立ちを含んでいて、その場にいた全員が振り向いた。呼ばれたその本人である八面六臂が、呆れたようにため息をつく。
「なまえ、またデリックをからかったね?日々也と月島はなまえに騙されただけ。だから津軽、その拳を下ろして。あとサイケ、いい加減なまえから離れろ津軽いるんだからもういいだろ。全員、わかったらさっさと夕飯の支度なり風呂掃除なり家の仕事しろ!」
「「はっ、はい!」」
ろっぴはあっという間に誤解を解いて、あっという間にみんなに命令してその場を収めてしまった。みんなが思わずろっぴに敬礼をしてしまうあたり、やっぱり我が家のリーダーだなぁと思う。
未だくっついているサイケを私から引き剥がして(ちょっと名残惜しい顔をしたらろっぴに睨まれた)、ろっぴは私を自分の部屋へと連れ出した。洗い物はデリックに任せましたよろしく。
「どしたの?」
ベッドに二人並んで座る。何かあったの、と聞き出すのはサイケと全く同じだ。ただ、サイケは泣きじゃくって言えないだけで、ろっぴはなかなか言ってくれないという違いはあるのだけれど。
ろっぴは袖で口元を隠しながら、なにやらもごもごと口ごもった。これは照れている証拠だ。可愛いとは思うけれど、この状態でろっぴと会話できるほど私はエスパーじゃない。
そいやっと無理矢理袖を引っ張って、ろっぴの顔を覗きこむ。うわ真っ赤。私何も聞いてないのに。
「はいどーぞ」
「……みんなが、なまえに構う…から、俺が独占したくなった…」
「子供か」
「だっ…て、い、一応俺、なまえの夫…だし」
まったく、さっきの凛々しさはどこに行ったんだか。ま、私もこのギャップにかなーり萌えているんですが。ギャップ大好きですが。むしろろっぴ大好きですが。
更に顔を赤くするろっぴの頬に口付けて、今日は旦那様の言うことを一つだけ聞いてあげようとこっそり決めた。
すみません、これが私の旦那様なのです。「なんでもいいの?」
「うん」
「じゃあ…ヤりた「却下」
「なまえの嘘つき…」
「ろっぴのスケベ」
▽▽▽▽▽
拐羅さまリクエスト、派生組でろっぴ落ちでギャグ、でした!
なんというか…中途半端なギャグで申し訳ありません…。派生組のギャグ担当はデリックです。津軽と日々也と月島は天然担当です。サイケたんはちょっぴり腹黒な天使担当です←
そして八面六臂がただのヘタレと化してますね。すみません、これは完全に私の好みです…(汗)
こんな作品ですが、拐羅さまに捧げます…!
拐羅さま、ありがとうございました!