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「お邪魔しまーす」

「なまえだ!いらっしゃい!!」


玄関で元気よく迎えてくれたのは、まだあどけない表情で笑うサイケだった。靴を脱ぐ前から飛び付くように抱き付かれて、若干よろける。ふわふわのピンクのファーに顔を埋めるように抱きしめ返すと、ふわりと柔らかい匂いが香った。


「ちょっと、いつまでそこに居るつもり?」


玄関でいつまでもぬくぬくしている私たちに痺れを切らしたのか、臨也が奥から不機嫌な声を上げる。そうだった。そもそも今日は臨也に用があって来たんだった。

未だ腰にしがみつくサイケの腕を優しく振りほどく。ごめんごめん、そんな寂しそうな顔しないで、二人とも。鞄に入れてあった書類を臨也に渡して、見るからに高級そうなソファに腰を下ろした。もちろんサイケも一緒だ。


「依頼は無事に済んだみたい。後処理よろしくって言ってたよ」

「了解。悪いね、わざわざ届けてもらって」


私は臨也の怪しい仕事のお手伝いをしている。と言っても、お使いのような簡単なものだけれど。今日だって、言われた場所に行って言われた人から言われた書類を受け取ってきただけだ。内容はこれっぽっちも知らないし、知ろうとも思わない。それなのに何故こんなことをしているかと言われれば、それはただ単純に“臨也が好きだから”なんだと思う。…この想いが、本人に伝わっているかどうかは定かではないけどね。


「なまえどうしたの?なんか難しい顔してる」

「んーん、なんでもないよ」


くりくりの丸いピンクの瞳に覗きこまれて、首を振ってその黒髪を撫でて上げた。臨也は早速後処理に取り掛かってるし、終わるまでサイケと遊んでようかな。あー癒される。ほんとにこの子天使なんじゃなかろうか。

しばらく一緒にテレビを見たり、話したりしながら暇を潰していると、サイケはむー、と何かを考え込む仕草を見せた。どうしたの?と今度は私が覗きこむ。
サイケは一人で勝手に納得したように頷くと、いきなり私に抱きついて、頬にキスをした。


「……サイケ?」

「うーん、やっぱり、ほっぺじゃダメだよね」


きょとんとしている私などお構い無しに、サイケは顎に人差し指を当てて眉を八の字にした。可愛い…可愛いんだけど、サイケの考えてることが全くわからない。頬にキスをするのは今までに何回もあったから別に驚きはしないけど。まあ、誰かさんが不機嫌になるくらいで。当の誰かさんはまだパソコンに向かっている。こちらの会話に気付いてないみたいだ。

そして、ちらりと臨也を盗み見ていた私の視界を臨也と同じ顔がドアップで覆った。同時に唇に柔らかい感触。それがサイケのものだと気付くまで、数秒を要したことは否めない。


「ん…んぅッ!?」

「んー、」


ぐいぐいとただ押し付けるだけのそれは、次第に息苦しくなって必死にサイケの肩を叩いた。ようやっと解放された口でめいいっぱい空気を吸い込む。し…死ぬかと……!
サイケはと言えば、目をぱちぱちと数回瞬かせてまだ浮かない表情をしている。さっきの納得した表情から今の浮かない表情まで、本当に何を考えているのかわからない。今回ばかりは、私もお手上げです。


「サイケ、どうしてこんなことしたの?」

「えっとね、ほんとに大好きな人には、ほっぺじゃなくて口にするんだって、臨也が」


あっけらかんと答えたサイケの瞳はどこまでも純粋だ。というか臨也、お前この純白の天使になんつーことを教えてるの。
サイケは改めて私の両肩を押さえるように手を置くと、「よくわかんないから、もういっかい」とまた唇を押し付けてきた。いくら精神年齢が低いからって、体は成人男性と変わらないのだ。その力に私が敵うはずもなく、だから、逃げることもできなかった。


「ん…ん……」

「は、ふ」


まるで啄むように何度も落とされるキス。えっと、こういうのなんて言うんだっけ。バードキス、だっけ?
なんて場違いなことを酸欠に近い頭の隅で考えていると、いつの間にか私を押し倒していたサイケが引き剥がされた。


「……何やってんの」


上から降ってきたのは、最上級の不機嫌さを含んだ声。どうやら私たちのやり取りに気付いたらしい。臨也がサイケの首根っこを掴んで、私とサイケを交互に睨み付けた。


「だあって臨也、大好きな人には、口にちゅうするって」

「サイケの大好きは口にする大好きと違う」

「? いみわかんない…」

「サイケのはほっぺで十分。まったく、頬だけでも我慢してるのに」


怒りを通り越した呆れからか、疲れた顔で臨也は大きくため息をついた。サイケをソファに下ろして、今度は私の腕を引いて起こしてくれる。そして私の唇に親指を滑らせると、そこに噛みつくようなキス。さっきのサイケとは違い、だんだん深くなる口づけに早くも息苦しくなった。臨也は十分に堪能したあと、至極真剣な顔をしてサイケに言い放った。


「だからダメ。ここは俺の」


ぴと、と人差し指が私の唇に乗る。私はと言えば、息苦しいんだか恥ずかしいんだか嬉しいんだかで、ええと…そう、しっちゃかめっちゃかだ。ただ、自分の顔にどんどん血と熱が集まることだけが事実として感じることができた。

─大好きな人には、口にするんだって。

─ここは俺の。

二人の言葉が頭の中で反復して、私は頭と心臓が爆発するんじゃないかと気が気じゃない。一人で慌てる私の手を、サイケががしりと掴んだ。


「やだ!臨也だけずるい、俺も口にするのー!」

「ばっ…ダメだってば!」

「やだやだ、おれもなまえ大好きだもん!口にちゅうするもん!!」


途端に騒ぎ始めた同じ顔に、私は自分の状況も一瞬忘れて吹き出した。

ああ私ってば愛されてるな。そんなことを、じんわり心で感じながら。






小悪魔天使の純粋な迷惑行為

その後、臨也の仕事が終わるまで臨也の膝の上で過ごすことになりました…。

「今日はなまえに触るの禁止」
「臨也のいじわる!」
「(大人げない…)」










▽▽▽▽▽
萌佳さまリクエスト、サイケと臨也で夢主を取り合いでした!

いやらしいことも純粋な気持ちからできちゃうのがサイケだと思います…。サイケたんマジ天使…!←
臨也の出番が少なくて申し訳ないです…。その代わりデレを出させていただきました。タイトルは臨也から見たサイケの行動です。

萌佳さま、ありがとうございました!