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 その後、昼休み。私はいつものように購買でお昼を買い、屋上へとやってきた。 ここ最近毎日売り切れで食べられなかった大好物である購買のチョココロネを買えたこともあり、テンションは最高だ。
 フェンスに寄り掛かって座りながら大好物の袋を開けて、いざ食べようとした瞬間だった。

「お前さんこんなところにおったんか」

 例の仁王くんに見つかった。
 なんで大好物を食べようとしてるときに嫌いな人に呼ばれなければいけないのだろうか。世界は理不尽だ。

「なにか用?」
「……さっきよりも機嫌が悪いみたいじゃな」

 それがわかったなら今すぐ教室に戻れよ、というツッコミは今はしないであげよう。
 仁王くんはなにやら言いたそうに、しかし私が不機嫌だとわかったせいか迷っているように見えた。

「あー、あんな。お前さんに言いたいことがあって探してたんじゃ」
「で、言いたいことって言うのはなんでしょうか」
「手厳しいのう」
「早くしてくれないとせっかくの昼休みが無駄になるでしょ」

 こっちは言いたいことをはっきり言ってやった。我ながら少し厳しすぎただろうか。まぁいい。それは別に気にしない。
 そしてどうやら彼は覚悟を決めたような顔で私を見てきた。

「お前さん、俺の彼女になりんしゃい」

 あまりにも唐突に、しかしどこか確信を持った声でそう言われた。 私は想定外の内容にあまりにも驚いてしまい、声が出なくなった。
 どういうことなんですかこれは。なぜ私は今日始めて会話をした人間に告白されているんですか。しかもどこか上から目線だ。少々頭に来たぞ。

「り、理由は?」

 手から落ちそうになったチョココロネを必死で握り(力が強すぎてチョコが飛び出してしまった)ながら、私はそう理由を聞いた。

「なまえは、俺のこと嫌いじゃろ」

 ええ、そりゃあいきなり人の名前を呼び捨てにするような人は嫌いです。
 なんてことはとてもじゃないけど言えない。けれどこんなにはっきりと聞かれてしまえば嘘はつけない。

「まぁ、うん。そうね、どっちかと言えば嫌いな人間に入るかな」

 どうやら以外にもその言葉は彼にダメージを与えたらしい。顔がこわばったのがわかった。こういう返答くらい想定しておきなさいよ。

「……じゃから、やな。理由。それに個人的に興味が湧いたんじゃ」
「それだけ?」
「もちろんお前さんのことは好きじゃよ? その上であの理由なんじゃ」

 つまり好きな奴に嫌いなままでいられるのは辛い、俺のこと好きにさせてやるから付き合って欲しいということだろうか。
 そんなのお断りに決まっている。余裕で答えはNoだ。

「……ごめんなさい」
「やっぱり、やな」

 私はとりあえず断ろうと思い、彼に向き合いそう答えた。しかしそうして彼から発せられた言葉はやっぱり、という今度は想定していましたという返答だった。
 やっぱり、って。どういうことよ。答えがわかっているならいちいち言わないで欲しい。
 そう考えて、忘れてはならないことを思い出した。
 彼は“詐欺師”だということを。

「もしかして私ペテンにかけられてない?」
「……それはない。ましてや変装した柳生でもないぜよ」

 柳生、というのは紳士で有名なあの柳生くんだろうか。
 そういえば去年そんな柳生くんと同じクラスだったことを思い出した。柳生くんが愛読しているという本をたまたま私が教室で読んでいた際に話しかけられたことがある。その後その著者の本を何冊か借りたし、私の愛読書も何冊か貸したことがある。(彼と本の話をするのは、私は好きだった。そのせいか去年のクラスは本当に大好きだった。)
 ああ、テニスでは仁王くんのダブルスのパートナーを務めているんだっけ。機会があればもう一度本の話をしたいな。
 
 ……などと関係のないことを思い出してしまったが、仁王くんはそれはない、と断言してしまった。けれどそれさえもペテンかもしれない。そこで私は完全に混乱してしまった。

「とりあえず俺がなまえのこと好きっちゅーのは事実じゃ。ペテンなんかじゃないぜよ」
「あんまり信用できないんだけど」
「信用してほしいのう。それに、今回は断られてしもうたが俺は諦めが悪くてな。すまんがこれからも片想いとアプローチはさせてもらうから覚悟しんしゃい」

 そう言い残し仁王くんは屋上の扉へ向かい、階段を降りていってしまった。
 ついてない。例えば私が彼のファンだったならば、今こんなに混乱しなくて済むだろう。しかし残念。私は、何度も言うが彼のファンなんかじゃない。
 忘れよう。そうだ、忘れてしまえばすべて解決する。
 私はそう決意して、再びフェンスに寄り掛かりながら座ると、チョコが完全に飛び出してしまったコロネの袋を開けた。そして飛び出ていたチョコを食べたところで、私のせっかくの昼休みは終わりを告げた。
 鳴り響く予鈴に、一応真面目で通っている私は慌てて教室へと戻った。

 なぜか高鳴っている鼓動を、必死で抑えながら。




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