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淑女的永遠をあなたに





「疲れた……」

 そんな独り言は、虚しく孤独の中に吸い込まれていった。
 ――本当なら。本当なら今はきっと柳生と一緒にこの部屋にいるはずだったのに。
 そう、いるはずだった。しかし私は急遽バイトに呼ばれ、帰宅して時計を見てみれば時刻はすでに22時30分を回っている。
 
 柳生と私が付き合っていることはすでに両親には知られているし、むしろ紳士と呼ばれるほど優等生(実際はかなり意地悪なのだけれど)な彼のことを両親はいたく気に入っている。「柳生くんならいつでも泊まりに来て!」という母のとてもいきなりな発言に柳生はいつも言葉通り甘えている。そのせいで、もはや家族の一員のようになってしまっていた。

 バイトで疲れきった体をベッドに預けて目を閉じれば、浮かんでくるのは柳生のことだけだ。しかも明日はそんな柳生の誕生日なのだ。
 できるならば日付が変わると同時に直接祝ってあげたかった。だから今日は、本当は柳生が泊まりに来るはずだったのに。昼休みにふと携帯を確認してみれば不在着信が一件。表示されているバイト先の名前に、嫌な予感を感じつつもリダイヤルしてみれば。案の定今日入っていた子が一人来れなくなったから代わりに入って欲しい、というものだった。
 挙句の果てに今日は毎週ラストまでお客さんが引かないほど忙しい日で。しかも柳生もどうやら風紀委員の会議が入ってしまったらしく、泊まりの予定は完全になしになってしまったのだった。

「せめて電話しよう」

 そう決めて、私はベッドの上で日付が変わるのを待つことにした。


「……さん、なまえさん」
「え……?」

 聞き慣れた声に、はっと目を覚ます。どうやら日付が変わるのを待っている間に眠っていたらしい。
 覚醒しきれていないまま、その声の主を探す。次第にはっきりし始めた視界と頭で、ようやく私のベッド横で声をかけてくれたのが柳生だということに気がついた。

「柳生?」
「はい」
「え、どうして」

 今日は泊まらないことになったんじゃなかったっけ。そう疑問を口にしてみれば、あなたのご両親に電話で呼ばれたんです。という返事が返ってきた。
 私の両親はどれだけ柳生を気に入っているのだろうか。多分柳生の誕生日を祝うつもりで呼んだのだろう。完全に息子扱いである。

「そういえば今何時?」

 私が帰ってきたのが22時30分。そのとき柳生は私の家には来ていなかった。私が眠ってしまったあとに来たのだとしてもきっともう23時は回っているだろうし、時間に厳しい柳生の両親がこんな遅くに彼の外出を許すとは思えない。
 それに、私は電話をしようとしていたのに。それなのに眠ってしまっていただなんて。もしもう日が変わってしまっていたらどうしよう。彼女失格だ。

「0時18分、です」
「う、うそ……!」

 やってしまった。日が変わったと同時に一番に祝おうと思っていたのに。きっと柳生の携帯には仁王くんを始めとしたテニス部のみんなや、その他たくさんの友だちからお祝いのメールが来ているのだろう。

「……なまえさんのご両親から電話を頂いたときはびっくりしました。まさか23時過ぎにあなたの番号以外から着信が来るとは思いもしませんでしたからね」

 柳生の話によるとどうやら私の親(こんなことするのは確実に母だ)は「なまえったらさっきバイトから帰ってきたのだけれど、明日は柳生くんの誕生日で、しかも泊まりくるんだって朝から喜んでいたの。でもバイトに急に呼ばれたみたいで……柳生くんが良かったらでいいけど、今からでも泊まりに来ない?」と柳生に言ったらしい。
 なんという親だ。23時過ぎに人を家に呼ぶとは。いや、結果オーライではあるけれど。

「その、私の両親がとんでもない迷惑をおかけしました……」
「いえ、迷惑なんかではありません。確かに深夜でしたので驚きましたけれど、実は昨日から私の両親はふたりとも出張で居ないんです。さすがに誕生日を一人で迎えるのもつまらないですし、お言葉に甘えてしまいました」

 そういえば柳生の両親はふたりともバリバリ仕事をこなしている。出張もよくあるみたいで、そのタイミングで柳生は私の家に泊まりに来るんだ。厳しい両親に何も言われない日はその日しかないので、そう言っていつも泊まりに来る。ああ、そうだった。
 もし私の両親が柳生を呼ばなかったら、私はきっとあのまま朝を迎えていただろうし、今頃彼は一人で誕生日を迎えていたのだろう。いくら紳士と言えど、少し寂しがり屋な彼を一人にしようとしていたなんて。本当に彼女失格だ。

「柳生、ごめんね」
「なぜ謝るのですか?」

 そんなの、理由はいくらでもあるけれど。私は頭上に疑問符を浮かべている彼に、そのごめんねの意味を話した。

「一番に誕生日お祝いしたくて泊まりに来てって言ったのにダメにしちゃって、しかもせめて電話しようと思ってたのに寝ちゃって……」
「いえ、寧ろあなたはしっかり睡眠を取るべきです。最近連日バイトでお疲れだったではありませんか。それなのにせっかくバイトがお休みだったはずの昨日にもヘルプで入っていましたし」
「でも、彼女なのにこんな……だめだね」
「いいんですよ。誕生日と同時ににあなたの寝顔を見れたことですべて解決済みです」

 なんとまあ。すでに彼の中では解決してしまっていた。しかも私の寝顔だけで。

「それに、そんなにも私のことを思ってくださっているというのがわかっただけで十分です」
「当たり前よ。本当に、私は柳生のことばっかり考えているんだから」

 気がつけば柳生の喜ぶだろうことばかり思い浮かんで、柳生の一喜一憂する姿が目に浮かんで。すっかり渡しそこねてしまっているが、プレゼントを選ぶ時だって柳生のことを考えてはあれじゃない、これじゃないと思案していたし。
 日常生活の中で柳生のことを考えないことなんてほとんどない。そのぐらい、大好きな人なのだから。

「あの、柳生」
「はい」
「遅くなっちゃったし、きっと一番にお祝いはできていないと思うけれど……誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう」

 大好きな人だから。だからこそたとえ遅くなってしまっても言わなきゃいけない言葉。いつもは恥ずかしいけれど、こんなこと今日しか言えないけれど、私がいつも思っていること。奇跡のように彼がそばに居てくれる当たり前をもっと大事にするために伝えなきゃいけない言葉。
 柳生はどうやらそれが心底嬉しかったみたいで、少し頬を赤らめて照れているのがわかった。口角はどうにも紳士とは思えないほどに下がっている。これ、もうにやけてる以外に言葉が思いつかない。

「柳生、にやけてるよ」
「にやけてしまうのも仕方ありませんよ」
「これだから仁王くんに似非紳士って言われるのよ」
「あなたの前だけですよ」
「随分嬉しいこと言ってくれるわね」

 仕返しとばかりにこの紳士はそんなことを言ってのけた。くそ、これだから私の彼氏は。

「なまえさんこそ、私と出会ってくださってありがとうございます。それに、あなたが一番ですよ」

 聞き間違いだろうか。まさか柳生を祝ったのが、私が一番乗りだなんて。

「ほんとに?」
「ええ、一番です」
「メールとか来てなかったの?」
「携帯の電源は切っていますので」

 だからメールが来ているのかどうかもわからないらしい。では私の両親は祝ったでしょう、と聞いてみるとどうやら空気を読んでいたらしく柳生は即私の部屋に通されたらしい。

「なんというか、さすがです」
「私だってあなたに一番に祝われたかったということです」

 なんだってこの人はいつも私のうれしいことを言ってくれるのだろう。これだから柳生と一緒にいるのは楽しいし、毎日新鮮なのだ。

「ねえ、柳生」
「はい」
「ずっと一番でいさせてね。祝うのも、それ以外だって」
「もちろんです」

 そう言ってお互い笑い合えば、永遠を意味する言葉が彼への一番のプレゼントなのだということがわかった。
 これからもよろしく、私の彼氏様。




**********

 なんですかこれは(白目)
 大遅刻な上になんですかこれ内容がよくわかりませんちょっと柳生に罵られてくる

 2012/10/20 Happy Birthday,Hiroshi Yagyuu!!



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