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謙也と財前が絶頂な人にチーズリゾットを作るおはなし





「財前頼む! 白石の誕生日に、一緒にチーズリゾット作ってくれ!」

 4月12日の昼休み。「白石委員会で昼一緒やないねん」と言いながら屋上で昼食を食べていた俺の元へと現れた謙也さんは、そう言って、俺に手をあわせて懇願してきた。

「せやかて謙也さん、自分でレシピ見て、一人で作ったほうがええんとちゃいます」
「お前なぁ、俺が一人で作れると思うてるん?」
「謙也さん、家庭科の成績は」
「……恥ずかしながら2に限りなく近い3やねん」
「うわ」

 どうやら謙也さんは、白石部長の誕生日にチーズリゾットを作りたいから一緒に作って欲しいらしい。けれど、二人が付き合っていることを知っている以上そんな二人の邪魔をしてしまってもいいのだろうかと思ってしまう。謙也さんは、俺も混ぜて部長の誕生日を祝いたいというのだ。

「午前中は部活やん? で、午後白石のこと家に呼ぶねん。やからそんとき財前と一緒に作りたいんやけど……」
「せやから、俺邪魔やと思うんすわ」
「邪魔やないで?」
「せっかくの誕生日なんや。恋人とふたりきりでおりたいのが普通やろ」
「いやいや、白石にはもう言っとんねん! 財前も来るでーって」
「アンタ仕事早すぎやろ」
「俺を誰だと思っとんねん! スピー」
「スピードスター、っすわ」
「ちょお! 人の台詞とるなや!」

 部長もいいというのなら仕方ない。なんだかんだ言っても大切な先輩たちだ。そんな人達の頼みを無下にはできない。


 そして4月14日。午前中はもちろん部活で、始まりから終わりまで遠山は大はしゃぎで白石部長を祝い、部活終了後には部室で部員全員からケーキをプレゼントし……と、相変わらずだった。部長はまんざらでもないようで、ずっとありがとう、と涙ぐみながら呟いていた。

「ほんま、みんな優しいわ……俺、四天宝寺の部長で良かった」
「白石ずーっと涙ぐんどったもんな。朝金ちゃんに言われたときなんてなんやもう母親みたいな表情やったで」
「金ちゃんにおめでとうなんて言われたらそら泣くわ」

 帰り道。俺と謙也さんと白石部長は迷わず謙也さんの家へと向かって歩いていた。
 部長はそりゃあもう感無量と言うようにずっと先ほどの話をしていた。謙也さんもそんな部長を見るのが嬉しいようで、まぁもうリア充乙としか言えない状況だ。爆発しろとまではさすがに言えないが。

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」

 そうして謙也さんの家に着いた。謙也さんの部屋へ行き荷物を置くと、謙也さんは部長に部屋で待ってるように!と言った。
 白石部長はそれこそ頭上にハテナを浮かべていて、それがとても可愛らしくて。さすが部長だなとなぜか納得してしまった。
 謙也さんの部屋をあとにし、キッチンへと向かう。なんだかめったに無いような状況に少々緊張している自分がいるのに驚いた。

「さ、やるで財前!」
「材料ちゃんと揃えましたよね」
「もちろんや! とろけるチーズやろ、ベーコンやろ、それから……」
「まぁ、大丈夫みたいやな。んで、米は」
「朝炊いといたわ」
「ほならまずベーコンと玉ねぎ切ってください……って、謙也さん!」

 やる気満々な謙也さんが異様にキラキラしていて少々眩しい。本当に愛されているんだな、部長。などとまたしても無駄なところに納得しながらも、きっと作業手順を覚えていないであろう謙也さんに材料を切るように命じる。
 が、しかし。包丁を握る謙也さんの手つきは慣れていないせいか物凄く危ない。そもそも材料の抑え方が猫の手じゃない。挙句包丁をただ叩きつけているような印象を受ける。このままだと指を切りかねない。そう思って大声で名前を叫んだ。

「ん、なんや」
「包丁、一旦置いてください」
「え?」
「アンタ、慣れてないからなんでしょうけど手つきが危ないんすわ。そのままやと明らかに指、切りますわ」
「ほんまに? そないに危なかったん?」
「見てられんわ」

 確かに、この様子だと謙也さんが俺を呼んだのは正解だったのかもしれない。俺が居なかったらきっと謙也さんは指を切っていただろう。
 仕方がない。ここは俺が玉ねぎを切って、謙也さんにはそれを見た上でベーコンを切ってもらおう。それぐらいならいくら家庭科が2寄りの3な謙也さんだって切れるはずだ。

「謙也さん、俺玉ねぎ切るんで。お手本と思って見といてください」
「お、おん」
「その後謙也さんにはベーコン切ってもらいますんで」

 そう言って俺は包丁を握ると玉ねぎを切っていく。トントン、と軽快な音と共に玉ねぎが切られていく。全部切り終わり包丁を置く。そして俺の手つきを見ていた謙也さんはぼそっと「目ェ痛い」と呟いた。

「玉ねぎでやられたんやな。涙も出とるわ」
「うわああほんまか」
「ほんまや。ださいっすわ」
「うるさいわアホ!」

 思わずポケットのなかのスマホに手が伸びそうになる(正直面白すぎて写真を撮っておきたかった)のをぐっと抑えると、「はよベーコン切ってください。部長待たせる気なんすか」と言い放った。

「せやな……!」

 と、謙也さんは涙を拭うと包丁を握った。そしてさっきよりはまだマシな切り方で最後まで切り終えた。けれど危なっかしいことに変わりはない。心底これ以上切るものがなくてよかった、と感じてしまった。

「次は鍋にベーコンと玉ねぎ、それからマーガリンを1/2入れてください。んで、玉ねぎが良い感じになってきたら牛乳入れてええっすわ」

 きっとここからは俺が手を出さなくてもいいだろう。謙也さんは俺が言った通りに材料を入れていく。そして、なぜか謙也さんは箸を取り出した。

「ああ、木べら使うてください」
「え、そうなん」
「……アンタ、家庭科1なんとちゃうん」
「そないなわけあるか!」
「せやかて……箸とか」
「木べら! 木べらやな!」

 どこまでも料理ができない人だ。もうそりゃあ笑えるくらいに。そう思いつつもなんだか温かい気持ちで謙也さんが材料を炒める様子を眺める。
 少しして、「もうええと思うんで牛乳入れてください」と言う。謙也さんは牛乳を鍋に入れて、「ほんで?」と聞いてきた。

「少し煮てから固形コンソメ入れて溶かしながら混ぜてください」
「おん」

そろそろいいだろう。牛乳が温まったであろうタイミングで、俺は謙也さんに固形コンソメを渡す。そして彼はそれを鍋に入れ、混ぜ始めた。

「せや、コンソメを木べらで押さえながら混ぜるとやりやすいっすわ」
「ん、財前はほんま天才やな」
「こんぐらい誰でもできます。謙也さんええ加減料理覚えたほうがええっすわ」
「せやなぁ……」
「いつも将来は部長と同棲するんやー、って言うてますやん。で、同棲したら白石部長に料理させるん?」
「うーん、それはやっぱアカンやろ……女ちゃうし、それになにより家事全部任せるんは嫌や。負担にしたくないねん」
「やったらはよ料理覚えたらいいっすわ。将来のためにも」

 あまりに謙也さんが不器用すぎるので思わず要らない事まで行ってしまった気がするが、まあいい。いつもツンばかり発動させてしまっているので、今日ぐらいはデレてやってもいいだろう。何より謙也さんがここまで白石部長が好きだというのなら応援するに決まっているのだから。
 二人がこのまま一緒にいるというなら、俺はいつまでも、できるだけ尽力しようではないか。

「お、コンソメ溶けたで!」
「ほな、ご飯入れてください。一膳より少し多めやろか」
「こんぐらいかー?」
「おお、そのくらいや。で、鍋に入れたら焦がさんように 2〜3分混ぜ続けてください」
「おーう。……なんや楽しいわ。白石のためっていうのもあるんやけど、財前がここまで素直なんもなかなかないからなぁ」
「うっさいっすわ」
「ありがとな」
「はいはい喋っとらんと手動かしてください。焦げたらどないするん」

 照れ隠し込みでそう言うと、謙也さんは再び「ほんまありがとう」と言い出した。ここまで感謝されるとなんだか恥ずかしい。そこまで大したことをしているわけではないのに。

「頼りになる後輩や」
「頼りない先輩っすわ」

 なんて、本当は頼りになるのだけれど。まぁ、そんなことは絶対に言う気はない。謙也さんは「すまんなぁ頼りにならんくて」と少し意地悪そうに言うと小さく笑った。

「ん、もうチーズ入れてもええやろ」
「そうっすね。もうええっすわ」

 そうしてスライスチーズをちぎりながら鍋へと入れる。少ししてチーズが完全に溶けた。思ったより早く溶けて、なんだかその様子が、謙也さんと白石部長のようで思わず微笑んでしまった。
 部長はとことん謙也さんに弱い。逆もまた然り。何かあってもどちらかが笑えばすぐにふたりとも笑顔になる。それこそチーズが溶けるよりも早い速度で。
リア充乙、と心のなかで本日二回目の言葉を呟く。本当にどこまでも幸せな二人だ。

「んで、塩コショウで味付け整えてください。塩は三本指でひとつまみくらい、コショウは一振りくらいやな」
「三本指……ああ、アレか。先生に言われたわ。お前スプーンでごっそり塩入れすぎやって」
「これはさすがに基本っすわ」

 そうして味付けを整えると謙也さんは火を止めて、近くにあった計量スプーンで鍋から少し、出来立てのチーズリゾットを掬い、口へと運んだ。

「ん……! んま! めちゃうまやで!」
「それは良かったっすわ」
「財前も食うか?」
「部長の分なくなってまうで。あと同じスプーンはいやや」
「なんや最後少し凹むぞ……まぁええわ、違うスプーンでやったるから食ってみ」

 と、謙也さんは違う計量スプーンで再び少し鍋から掬うと、俺へとスプーンを差し出してきた。俺はそれを受け取り、口へと運ぶ。
 うん、おいしい。謙也さんにしては上出来だ。

「どや?」
「……まぁまぁっすわ」
「そか! 良かった、これで白石にも出せるな!」
「良かったやん」
「おーう! 財前のおかげや! 今度善哉奢ったる!」
「よっしゃ!」
「そこだけはしゃぐなや!」

 そして皿へとそのチーズリゾットを盛り、仕上げにブラックペッパーを振りかける。きっと部長はそんな謙也さんの愛情たっぷり(言うててさぶいぼやけど)チーズリゾットを見たら破顔させて喜ぶだろうな、と思いつつ、それを乗せたお盆を持った謙也さんとともにキッチンを後にした。

「財前先入ってや」
「なんでや」
「後から驚かすんや」
「あー、はいはい、ほなら善哉二個奢ってくれるんやったらええですよ」
「二個!? おま……先輩をなんやと」
「はい決定や。ほな行くで」
「くそ……爪隠しおって……」
「なんか言うた?」
「いえ、なんでも」

 謙也さんの扉の前で、きっと部長に聞こえているであろう会話を繰り広げた。まぁそうするんだろうという予想はついていたけれど。
 俺はそう思いながら、謙也さんの部屋の扉を開けた。

「お待たせしました」
「ん、おお財前! 何しとったん? っちゅーか謙也は……」
「白石!」

 てっきり気がついていたのかと思いきや、まるで知らないらしい。再びハテナを浮かべる部長がそこにはいた。そしてそんな部長に名前を呼ばれた途端、見えない位置で待機していた謙也さんは、部長を呼んで部屋に入ってきた。

「誕生日おめでとっちゅー話や!」

 部長はお盆の上にチーズリゾットを乗せている謙也さんの姿にビックリしたようで、しかしすぐに元に戻った。

「え、謙也が、え?」
「財前に手伝ってもろたんや」
「っすわ」
「ちょお、なん、も……めっちゃ嬉しい……!」

 大好きな人が大好きなものを持っているからなのもあるんだろう。部長は完全に涙ぐむなんてものじゃなく、それこそ嬉し泣きしていて。
 謙也さんはそんな部長の姿に少し戸惑いつつも「俺達からのプレゼントやで!」とそう言った。

「ありがとな、謙也、財前……!」
「そないに泣くなや」
「やって、なんやもう嬉しくて仕方あらへんのや」
「そこまで喜んでもらえるんやったら手伝った甲斐があるってもんっすわ」
「やな!」
「ほんまありがとな……! ほな、早速食べさせてもらうわ!」

 そして、部長はお盆に乗せてあるスプーンを手に取り「いただきます!」というと、皿からチーズリゾットを掬い口へと運んだ。その瞬間“聖書”が聞いて呆れるほどに破顔させて、「うま……!」と呟いた。

「せやろ!」
「うわ、めっちゃうまい! 自分で作るより、しかもおかんのよりも美味いで!」
「ほんま!?」
「ほんまほんま……! ん、謙也料理出来ないのによう頑張ったわ」
「この人指切りそうやったわ」
「さすが謙也やな」
「ちょお、ひどない!?」

 部長はそう言いながらも光速でチーズリゾットを口へと運ぶ。

「財前ほんまありがとな。謙也一人やったら絶対今頃出血多量で死んでたわ」
「まぁ、でも。謙也さんめっちゃ頑張ってましたわ」
「ん、何や嬉しすぎて死にそうや」

 謙也さんはそんな部長を見てもう言葉も出ないらしい。目をキラキラさせながら、しかも破顔させてチーズリゾットを頬張る部長はまるで女子だ。そのぐらい綺麗で可愛い。ただ、食べながら「エクスタシーや……」と呟くのはどうかと思うが。

 数分して、部長はチーズリゾットを完食した。綺麗に一粒も残さず食べている。どこまでも完璧だ。

「もう、ほんまに嬉しくてありがとうしか言えんわ」
「こっちこそ喜んでもらえて嬉しいわ!」
「財前には今度5善哉やな」
「よっしゃ……」
「財前おま、めっちゃ悪い顔になっとるわ……」

 これで善哉が7個食べられるというわけだ。そりゃあ悪人面になっても仕方がない。
 と、いうのは冗談……ではないけれど。

「ほな洗ってくるわ。ふたりともゆっくりしててやー」

 そう言って謙也さんは再びお盆に空っぽになった皿を乗せ、キッチンへと向かった。

「財前」
「なんです」
「今日はありがとな」
「こっちこそ、なんやせっかくの誕生日なんに」
「ええよ。財前おらんかったらほんまに今頃謙也死んでたわ。アイツ家庭科の時間毎回先生に呆れられとるくらい料理出来ないんやで」
「相当やな」
「せやろ? やから、ありがとな。それに本番はまぁ、夜やし?」
「先輩きもいっすわ」
「褒め言葉として受け取るわ」

 部長はそう言って少し妖艶に微笑んだ。仕方がない、このまま謙也さんをいじって遊びたい気もするがきっとこのあと部長は謙也さんを襲う気満々なんだろう。とことんリア充乙だ。羨ましくはないが。

「ほな俺、そろそろ帰りますわ」
「ん、もう少し居ってもええよ?」
「こっからは俺が手伝うことなんもないですし」
「3Pしよか?」
「そっちの手伝いは勘弁っすわ」
「なんやーほんまはしたいんやろー」
「部長、きもい」

 決して興味が無いわけではないが、それは俺が入っていける領域ではない。白石部長はとことん変態だ。

「ええっす、俺は帰って初音といちゃついたります」
「財前らしいわ」
「ほな」
「おん、気ぃつけてなー」

 そうして部屋を出ようとした瞬間、謙也さんが戻ってくるのが見えた。そういえば、俺は肝心な言葉を言い忘れてるではないか。
俺は扉に向かっていた手を一旦戻し、部長へと向き直し、そして言った。

「せや、部長!」
「んを! なんや?」
「誕生日おめでとうございます」
「ん、ありがとな。財前の誕生日は倍にして返したる」
「期待してますわ」

 ちょうど入れ違いで戻ってきた謙也さんに帰ることを伝えると、見送らせて欲しいと言われたのでとりあえず早く部屋に戻るようにと言ってみる。

「せやけど、」
「ま、せいぜいがんばってくださいっすわ。こっからが本番らしいで」
「へ?」
「ほな、お邪魔しました。お幸せに」
「え、お、おん! ありがとな財前」

 玄関に向かい、靴を履き、扉を開けた途端。謙也さんの部屋の方から謙也さんの(多分歓喜の)叫び声が聞こえたのは多分、気のせいではない。





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