熱情インストール
――決して、彼の邪魔をしたかったわけではない。
けれど確かに望んでいた熱情にまみれた甘く苦しいそれに、俺はただ飲み込まれていくしかない、それだけだった。
「ん……、け、ん、やぁ……」
「……はっ、白石……!」
深く交わされる口付けが、謙也の気持ちを教えてくれる。熱い口内を貪られ、俺もそれに応える。 見慣れた自分の部屋には、厭らしい水音がただ反響するばかりで。それ以外は何も聞こえない。聞こえてもそれは、辛うじて互いの吐息だけだ。
数時間前。部活が休みなこともあってか、謙也がいきなり「残りの春休みの課題、終わらせたるわ!」と言いつつ俺のワークの答えを見るために俺の家へやって来た。
もちろん、答えなんて見せるわけもなく。課題をとうに終わらせていて暇だった俺は、謙也のワークへと向かう真剣な表情をテーブル向かいに見つめていた。
そんな表情に、俺は欲情した。
まるで情事中を思わせるその表情は、しばらく熱を解放していなかった俺にとっては十分過ぎるほどだったのだ。
――抱かれたい、いや。犯されたい。
俺は気が付けば謙也の背後へ回り彼を抱き締めると、驚いて俺の方を振り返った彼に幼稚なキスをひとつ、落としてみせた。
謙也はそして、簡単に堕ちてきた。
握っていたペンをテーブルへと放り投げ、俺に一度離れるよう命じる。それに素直に従えば、謙也は俺へと向き直し、そして深いキスを仕掛けてきた。
「あっ、ふっ、けん、やぁ……」
望んでいた、見知った熱情に、俺はその先の快感を早急に求め出していた。
捩じ込まれる謙也の舌に、精一杯自分の舌を絡ませ、何度も透明な糸を垂らした。
背後にはベッドがあった。しかし、謙也は、そこには俺を運ばず、キスを交わしながら俺を床へと押し倒した。
そうして長いキスを終え、肩で息をしながら上に居る謙也を見つめれば、その目はやはり先程のもの――ただ違うのは、今は欲情に濡れていることだ――で。真剣に、ただ俺を見つめてくる。
「ベッド、連れてってくれへんの?」
「んな余裕ないわ。何日ぶりにお前とキスしたっちゅー話や」
「何日? なに言うとるん3週間や、日数換算するんもめんどいわ」
「そんだけ触れてへんのや。せやのに誘ってきよって」
「あかん?」
「歯止め利かんくなっても知らんぞ」
ただでさえいつも歯止めなんて利かない挙げ句大事などっかまでスピードスターなのに、それ以上歯止めが利かなくなったら。俺はいったいどうなってしまうのだろうか。
想像しただけで身体の奥からは熱が生まれてくる。ぞくぞくと背中を這いずり回るそれに、俺は小さく小さく喘いだ。
「歯止めなんざ利かせんでええわ。明日も部活は休みやし、今日は泊まってってや……な、ええやろ謙也……」
「ほんまどないしたん……やけに誘って来よるけど」
「ん、もう我慢出来ひんのや。3週間やで? 自分でもしとらんから……多分ごっつ濃いん出るで」
「あほ、そないにかわええこと言うなや」
そう言われ小さく笑うと、俺たちは始まりの幼稚なキスをひとつ、交わした。
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