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寂寥思考とさようなら





 なんで俺なんかと一緒にいてくれるんだろう、だとか。そんなことを考えたことがないわけではない。寧ろ幾度となく考え続けてきたことで、でも考えたってこの人には そんなこと関係ないんだって気が付いたのが、つい最近だ。
 きっと俺じゃ買えやしないような値段のソファに座って、外国の雑誌(やはりイタリアなのだろうか)のページをそりゃもう優雅に捲っている、そんな彼の前では。

「セリー」
「、なんスか?」
「やけに大人しいけどどうかしたかい?」
「いや、なんというか。うーん……」
「わかった、雑誌を読むのはやめるよ」

 そんな王子の隣に座ってぼうっとしていると、王子が俺を呼んだ。どうやら俺がぼうっとしていたのが疑問だったらしい。
 特に何を考えていたわけでもなく、本当に呆然としていただけだったため、理由を聞かれてもすぐには答えられなかった。
 すると王子は読みかけの雑誌を閉じるとガラス製のこれまた高そうなテーブルの上に置いた。

「え、俺に気にせず読んでてもいいッスよ!?」
「恋人が寂しそうな顔してるのに放っておくわけないじゃない」

 寂しそうって、俺そんな顔してたのかな。
 決して寂しいなどとは思っていなかったけれども、なるほど。確かに俺は寂しかったかもしれない。
 いつも王子の家に来たときは、自分では手の届かないような物ばかりのそれこそ異空間な場所なせいか緊張してしまっていたけれど。王子と一緒に入れるんだから緊張なんてする必要なんてないじゃないか。

「王子」
「なんだいセリー」
「恋人がもし自分の家に来て緊張してたらどう思いますか」

 ふと気になったので聞いてみる。すると思いのほかも悩んでいるらしく、いつもすぐに返事をする王子にしては珍しいなと思った。

「まぁ、あんまり気分がいいものではないけれど」
「やっぱり」
「でも初めて来たときは誰でも緊張すると思うよ、僕だってそうだし」
「王子でもッスか」
「僕だって緊張ぐらいするよ」

 意外な答えに思わず身を乗り出して返事をする。王子はなんだか、ズカズカと行ってしまいそうなイメージだった。

「それちょっと傷つくよ」
「いや、だって王子って気が付かない間に人の心支配してるから」
「それは褒め言葉として受け取ってもいいのかな」
「もちろんッス」

 そう、いっぱいの笑顔をして見せる。気が付けばどうして、だとか、そんなことを考えている暇もないくらい王子のことを考えてしまうのだ。
 そう思うたびに好きだと自覚させられる。ずるいっていうのはまさに王子の為にある言葉みたいだ。

「それならセリーもだと思うけれど」
「へっ!?」
「セリーといるときは無理に自分を作らなくていいから楽だよ。自然体でいられる」
「なんかそれ、すっごく嬉しいです」

 王子はいつも自然体な気がしますけど、そう言うとそんなことないよと言って頭を撫でられた。
 心地良い体温に、思わず王子の方へと頭を乗せた。

「セリーは大型犬みたいだね、かわいいよ」
「褒められてるん……スかね」
「抱きしめたくなる」
「じゃあ、抱きしめてください」

 きっとこの場合の犬って言うのは赤崎とか椿とかに向けられるものじゃないんだろうな、と思うと、なんだか特別になった気がして心が躍った。
 いっそこのまま王子に抱きしめられたまま昼寝でもしたいな、なんて。ソファの横の窓から見えた太陽を眺めつつ思う。

「セリー、好きだよ」
「俺も王子のこと大好きッス」
「大好きで来られちゃったか」
「好きなんかじゃ足りないです」
「君のそういうところ、好きだな。まっすぐであったかい」
「王子だってまっすぐであったかいじゃないですか。いっつも直球ッスよ」

 まるで高校生の付き合いたてのカップルのような好きの言い合い。それでも幸せなのはきっと王子とだからだ。

「ねぇ、夏になったらひまわりでも見に行こうか」
「いきなりッスね」
「ひまわりを見てはしゃぐセリーはそれはもう最上級に可愛いと思うよ」
「完全に子供扱いじゃないですか」

 きっと麦わら帽子もオプションで着いているのだろう。確かにひまわりは好きだし、はしゃぐと思うけれど。

「子供と一緒にベッドであんなことはしないよ?」
「いや、そういう意味じゃなくて」

 平然とした顔で夜の話を持ち出してくるものだから手に負えない。すると王子は俺の手に自分の手を重ねてきた。王子の体温は、どうしようもなく安心できるから好きだ。

「恭平」
「な、なんスかいきなり!」
「昼寝でもしようか」
「……ッス」

 不意打ちで名前を呼ばれ、ドキドキと高鳴る胸を押さえながら叫ぶと、王子もやっぱり眠かったのかそれともさっきの俺と同じ考えに至ったのかわからないけれど、昼寝を提案してきた。
 俺は照れながらも小さく返事をした。
 つまり俺は、考え事とかそんなことをしなくてもいいくらい王子に愛されているらしい。





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