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どうか僕らに永遠という名の祝福を





 世良が好きだ。なんて、本人にも伝えられない癖に脳内でループする。止めたくても止まらないその二文字が、俺を縛っている。
 男同士だとかそういう物を一旦考えないようにしたとしてもやっぱり簡単にその言葉を言うことができないのだ。プライドが邪魔をする。年齢が邪魔をする。失うのが怖くて、消えてくことを恐れて、いつまでも素直になれない。
 なのに、なんでお前はそんなに軽々しく言えるんだ。その言葉をどういう思いで言っているんだ。
「堺さーん! 今日家行ってもいいッスか!?」
「来るなっつっても来るんだろお前は」
「あ、バレてました?」
「当たり前だ」
「堺さん、好きッス!」
「はいはい」
 言われるたびに心が痛む。俺も好きだと言えたならどんなに楽なのだろうか。
 ――結局臆病なんだ、俺は。


 自宅に着き、お腹空きました!と言う世良をソファに座らせる。
「堺さんの料理食べないと俺ホント生きていけないです」
「そりゃありがとよ」
「だって堺さんの味付け超俺好みなんスよ!」
 それはわざとだよ、世良。なんてもちろん言えるわけなくて。
 世良は俺の味付けに文句を言わず美味いと言いながら食べてくれる。個人的に薄いかもしれない、と思うと世良が醤油をかけていたり。だから濃い物が好きなのかもしれないと思って世良が来る時は濃い味付けにしている。
 全部、世良を喜ばせたいからだ。それで世良がこうして喜んでくれるならなんだっていい。
「世良、今日何が食いたい」
「え、俺が決めていいんスか!?」
「今日だけな」
「え、ちょっと待ってください……うーん、どうしよう……」
 どうやら結構必死で考えてくれているらしい。ときどき「肉じゃが……でもやっぱりお煮付けも……」と言うひとりごとが聞こえてくる。
 その間にエプロンを着けて冷蔵庫を見る。もし足りないものがあったら世良に買いに行かせよう。
「うーん……堺さんすみませんもうちょっと待ってください」
「別にいくらでも待ってやるよ」
「なんかもう食べたい物多すぎて決められなくて……」
「今日だけだからな」
「うー……」
「遠慮とかしてんなら殴るぞ」
「理不尽な!」
「今日だけならいつも食うなって言ってるのも許してやる」
「え、ホントッスか!」
 その瞬間世良の目が輝いて、なんだか無理させてしまっていたのではないかと思った。
 別にまだ22歳の世良なら何を食べたってすぐに消費されるんだろうから、好きなものを食べればいい。ただそうさせないのは今の自分のような選手にはなってほしくないからだ。それに何よりも世良に飯を作るという行為が俺にとって幸せだからだ。つまりは自分の為なのかもしれない。
「じゃあ俺豆腐ハンバーグ食いたいッス!」
「ハンバーグ……って、豆腐ハンバーグっていっつも作ってるやつじゃねぇか」
 肉が食いたいのかと思いきや案外そうではないのだろうか。
「だって……そんな肉のハンバーグとか堺さんに申し訳ないし、」
「遠慮すんなつったろ」
「それに俺堺さんの作る豆腐ハンバーグ、スッゲー好きなんス!」
「っ……なら、いいけどよ」
 それならもう何も言えない。世良が食べたいと言うのなら作ってやるさ。
「とりあえず作ってやるからおとなしく待ってろ」
「了解ッス!」
 世良があまりにも嬉しそうに言うもんだから思わず柔らかい声で言ってしまう。でもまぁたまにはいいだろう。何せ今日は世良を甘やかしてやろうと思っているぐらいなのだから。
 キッチンに立ち、包丁を握る。トントンと気持ちのいい音と共に世良の明るい声が聞こえてきた。
「へへ、幸せッス」
「そうかいそうかい」
「なんか堺さん、俺の奥さんみたいッス」
「ばっ……おま、いきなり何」
「エプロンすっげー似合ってるし、料理上手いし……」
 心底世良の居るソファからキッチンが死角になっていてよかったと思ったことはない。動揺しすぎて思わず切っていた野菜を床に落としてしまった。
「なんというか、堺さんが本当に俺の奥さんになってくれたらいいなって思います」
 ……とんでもない爆弾発言だ。もはや確信犯の域だ。
「世良、おとなしく待ってろって」
「本当に俺堺さんのこと好きだなって、毎日そう思うんス」
 ――好き。
 だから、なんで、その二文字をそんなにも簡単に言えるんだ。俺が言いたくて言いたくて言えない二文字を、なんで、どうして。
「それは、どういう意味での好きなんだ」
 思わず口に出た言葉に、自分で驚いた。泣きそうな声。思わず包丁を置く。なんで泣きそうになってるんだ、俺。
「さ、堺さん?」
「俺はずっとお前のこと好きで、ずっと好きなのに言えなくて、なのにお前はいつも簡単に好きって言って、」
「ちょ、堺さん!」
 世良がキッチンへと走ってくる音が聞こえてくる。あぁ、引かれるかな。とか、嫌われるのは嫌だなとかそんなことを漠然と思ってしまう。
 けれど衝動とはいえ今まで言えなかった言葉が言えてなんだか肩から力が抜けた。
「なんでそんなに簡単に言えるんだよ……好きの意味が違うならもう……!」
「堺さん落ち着いて!」
「せ、ら」
 自分では十分落ち着いているつもりなのに、それなのに取り乱して。コイツには格好悪い姿見せたくないのに。
「堺さん、俺ね。堺さんの持論聞いた日からずっと堺さんのこと追いかけてた。追いかけて追いかけて、気が付いたら堺さんのこと好きになってた。どんな厳しい言葉も裏の意味を考えたら優しいって気付いた。そんな不器用な堺さんのことが、好きなんス」
「だから、それはどういう……!」
「じゃあこうしたらわかりますか?」
 真剣な目で俺を見てそう告げる。さすがにどういう意味での好きで世良が言っていたのか、ここまで言われるとわかる。でも本人の口から聞きたかった。
 そう思ってどういう意味か尋ねると、いきなり腕を掴まれた。そして、手首にちゅっ、と軽いキスをされた。
「おま……なんでそんなとこに」
「堺さんならわかるかなと思って。俺は、そういう対象として堺さんのこと好きなんス」
「腕の首って……、!」
 馬鹿だ。世良はホントに馬鹿だ。くそ、チビ世良のくせにかっこつけやがって。
「くそ……飯食ったらな!」
「え、嘘、いいんスか!?」
「勝手にしろ馬鹿」
「よっしゃああああ! 堺さん大好きッス……!」
 今なら言えるよ世良。俺もお前のことが好きだ、大好きだ。


 ――手首へのキスは、欲望を意味する。





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