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「・・・ジル・カグラか?」

 便器に顔を向けていたジルは、突然背後から声をかけられてびくりと肩を震わせた。何者かと顔を声のする方へ向けると、黒髪にワインレッドの眼鏡をかけた少年がこちらをいぶかしげに見ていた。

「やっぱりジル・カグラだな」

 少年はジルの顔を確認すると、ホッとしたような顔をした。どうやらジル本人かはかりかねていたらしい。ジルはというと見ず知らずの少年にフルネームを呼ばれ、あまり気持ちの良いものではなかった。それが顔に出ていたのか、少年は「ああ・・・悪い悪い」とぶっきらぼうに謝った。
 そうこうしている内に自分以外の人が室内にいるという事にホッとしたのかジルの吐き気も治まっていた。

「あの、もしかしなくても三○一号室の方ですか?」

 ジルは今更ながらも少年にそう問い掛けた。

「ああ、そうだ。中々同室者が現れないからおかしいなと思ってたんだけどさ。あんたなら納得だわ」

「・・・・・?」

 少年の言葉に疑問符を浮かべながら相手を見据えると、少年はひどくめんどくさそうな表情をした。

「なんつったらいいのかな・・・あんたの面と名前は"GloriousKnight"の時点で学校中の奴ら皆が知っている事実なわけよ。でもってあんたは知らないだろうけど、俺とあんたは同じクラスでさ。担任がジル・カグラは生徒会の用事で今居ないが、クラスの一員である。みたいな説明をされてたのよ。だから俺はもしかしたらと思案してたらビンゴだったわけだ」

 少年の話を聞く限り、何だか出遅れたような気がして、生徒会に行くんじゃなかったと少し後悔の念が過ぎった。

「今更ですが、俺はジル・カグラ。ジルって呼んで下さい」

 ジルは笑顔で少年に話しかけた。が、しかし少年の方は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。

「俺あんまり馴れ合うの好きじゃねえんだわ。それに、悔しいけど俺も"GloriousKnight"狙ってたんだよね。まあ後一歩足らずで第三席になっちまったけど」

 まさか拒否されるとは思ってもみなかったジルは愕然としたが、なによりも彼が第三席という事実に眼を見開いた。

「第三席なんですか!?」

「・・・?まあそうだけど」

「それなら尚更のこと親睦を深めなくちゃいけないですよ」

「・・・・お前頭良いくせに人の話聞いてたか?」

「もちろん。ところで名前はなんでしたっけ」

 少年は頭を抱えながらジルの問い掛けに答えるしかなかったのだった。

「クラン・イズル・・・言っとくけどあんたみたいな女みたいな顔した奴が俺は最高に嫌いなんだよ。だから用がない限り話し掛けんな近寄んなよ」

 クランは苦々しい顔をしながらそう吐き捨てた。まさかジルの地雷を踏んでいたとも知らずに。



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