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 寮父であるカイルから諸注意を受け、貴金属で出来た精巧な鍵受け取った二人は階段を登りながら目的の部屋へと向かっていた。ジルの鍵には三○一、マルクスの鍵には四○四と部屋番号が記されていた。渡された当初、マルクスはジルと同室ではないことに落胆の表情を浮かべていたが、ぶつぶつ言いながらも納得しているようだった。一方ジルはというと、先程カイルによって貸せられた罰という名の証らしいブレスレットについて考えていた。このような奇っ怪な物を易々と配給している軍というものに、生徒会で聞いた話を含めてさらに疑心を抱いたのは言うまでもなかった。もちろん、そのような事を口にした日にはどうなるかわかったものじゃないと、ジルは独り冷めた思考を巡らせるのだった。

「ジル!」

「・・・・・っ」

 マルクスの声ではっとしたジルは、自分が目的としていた三階を過ぎて四階への階段に脚を掛けようとしている事に気が付いた。どうやら考え過ぎてぼーっとしてしまっていたらしいとジルは顔をしかめた。

「大丈夫か?何なら部屋まで着いて行くけど」

 マルクスは心底心配しているようで、ジルの顔を覗き込みながらそう問い掛けた。

「いや、大丈夫だ。ちょっと考え込んでただけだからさ」

 ジルはマルクスに心配させまいと努めて笑顔を作った。その効果があったのか、マルクスは渋る表情を浮かべながらも納得したようで、「何かあったら言うんだぞ」と声をかけてから四階へと登っていった。

(いけないいけない。こんな事くらいで表情に出ていたら俺の考えなんてすぐにばれてしまう・・・)

 マルクスが見えなくなったジルはそう心の中で自分を叱咤し、今日から自分が暮らす三○一号室に向かったのだった。

 部屋に着いたジルはそういえば自分の同室者はどのような人物なのだろうと今更思いながら鍵穴に鍵を差し込んだ。ガチャリと金属同士特有の音が響いた。

「・・・お邪魔します」

 ジルが恐る恐る部屋を開けると、室内は人が居るとは思えないほど静寂と闇に包まれていた。その空間が一瞬地下シェルターを連想させ、ジルは背筋が凍るような感覚と吐き気を覚えた。

「・・・っう・・・」

 ジルは膝を附きそうになるのをなんとか堪えて、部屋に備え付けられているトイレと思われる場所に駆け込んだ。電気を点ける余裕のなかったジルはさらに薄暗らく寒いトイレ内で吐き気が増したようで、便器に向かってこらえきれない吐き気と闘うしかなかった。

(何なんだよ。もう一年以上も前の事なのに・・・何でこんなに気持ち悪いんだよ・・・くそっ・・・)

 ジルにとって何もできなかったシェルター内での時間は自身に大きなトラウマとして刻まれていた。それは自分独り生き延びてしまったことへの後悔と自責の念なのか、当人さえもそれは解らなかった。生理的なそれはとめどなくジルを襲う。まるで存在そのものを否定されているかのように。

 ジルがトイレにうずくまってからどのくらい時間が経った事だろうか、未だ吐き気を覚えていたジルは小さなうめき声を響かせていた。そして、傍に近寄る人影に全く気が付いていなかった。



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