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 ジルは今ステージの上に立っていた。隣にはマルクスが同じような緊張の面持ちで佇んでいる。

「まずは新入生の皆さんに俺から挨拶がある」

 そういって話し始めたのは生徒会長であるユーリックだ。

「此処に来たからには解っていると思うが、此処では身分での上下関係は一切関係ない。在るのはただ自分自身の実力のみだ。力のある奴にはそれ相応の軍の階級が与えられる。今自分の隣にいる奴が常に自分のライバルであることを忘れるな。この国は今は軍の存在によって成り立っているのだから、自分達の行動に責任を持て、そしてこの国の為に働くために此処で学べ。俺からは以上だ」

 堂々と、そしてまさしくこの帝軍が何たるかをユーリックは述べた。新入生達の空気が一気に張り詰めたものになったことにステージ上のジルも感じていた。
 そして、進行に沿って入学式は進んで行き、ジル達二人の新入生代表の挨拶となった。

「今年の新入生代表は同一満点だったジル・カグラ、マルクス・エリーダの二名です」

 アナウンスの声が響き渡り、観覧席の生徒達は一瞬ざわめいた。だが、それもそのはずである。帝軍の入試で満点をとるということは九十九パーセント不可能と言われている。かつて、一度だけその驚異的な成績を打ち出した年代がいたが、その年以外は今までいなかったのだ。まさかそんな人物が二人も出てくるとはと、驚愕するのも無理はない話なのだ。

 ジルとユーリックはその後当たり障りのないありふれた挨拶を述べ、入学式も終盤となり、アナウンスが流れた。

「各自所定の教室に向かって、諸注意を聞き次第寮に行って下さい」

 生徒達がまばらに右往左往しながら自分の教室へと向かっている中、ジルとマルクスは仕事の終わった生徒会一同に連れられてとある一室に向かっていた。

 重厚な扉はそこが限られた者のみが入る事を許された場所であることを物語っていた。
 先頭を行っていたユーリックはその扉の前に立つとおもむろに手を翳し、何かを呟いた。すると、ギギギッと音を立ててその扉が開け放たれた。
 室内にはデスクがいくつかあり左中程に客間もしくは休憩スペースと思われるソファと机があった。壁はほとんど本棚になっており、ぎっしりと本が詰まっていた。それ以外にも見た事のないようなオブジェや使い道のわからないような物が点在していた。

「此処はいったい・・・」

 マルクスはジル自身も感じていた疑問を口にした。

「此処は私達の本拠地みたいなものかな・・・物がいっぱいあって驚いただろ」

 そう親しみやすい笑みを浮かべながら答えてくれたのは、ジルとマルクスを初めに案内してくれたルイスだった。

「はい・・・。でもそれよりもあの扉はいったいどうなってるんですか・・・?さっき、えっと・・マトフ少尉が何かしたようにも見えたんですが」

 確実にジルよりは周りに順応するのが得意であろうマルクスも、自分の人生経験において知り得たことのないものを眼の前にして、何が何だかわからないというのが実際のところだった。



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