無知と真実

 あらかたの進行を確認した面々は式が始まるまで各自待機となった。
 だが、ジルと青年だけは二人で新入生代表の挨拶をすることとなったことから、予定を変更せざるおえなくなったため待ち時間の間に話し合うこととなった。

「はあ、まさか君と私の二人が同一満点とはね。君を見くびっていたよ」

「それはこっちの台詞。お前と二人で挨拶するはめになるなんて思ってもみなかったし」

 ジルは青年に幾度となく女疑惑を貸せられたためか、不機嫌さを隠しもせずにいた。

「でもまあ、私の予想はやはり当たっていたね。君とこうして再び出会えた訳だし、これはやっぱり運命としか言いようがないね」

 青年はその形の良い顔に笑みを浮かべながらそう言った。

「はいはい。お前がそういう奴だってことはもう解ってるけど、恥ずかしい奴だな」

「そんなに妬かないでよ。私がこんな事をいうのは君だけだからさ」

 ジルの皮肉すら、「アハハ」と明るい声を上げて良いように捉えてしまう彼に、ジルは少なからず苛立ちを感じていた。

「ところで、そういえばお互い名前すら交換していなかったね」

 ジルはそんな彼の言葉に、あの時名前を言っていなかった事を思い出した。

「そういやどっちかが"GloriousKnight"になったら必然的に解るからとか言ってたけど、結局二人ともなってしまったから」

「まあいいんじゃないの、お互いこうして再び出会えたんだし、今ここで私達は出会ったという事にすればいいじゃないか」

「何だよ。今までのことを全部水に流せって言いたい訳」

 ジルは訝しげに青年を見据えた。

「別にそういうことを言っているわけじゃないさ。ただ、名前ってのはそれくらい意味を持つものだろう?」

 ジルはそんな彼の言葉に、もう自分が名乗る事の無くなった本来の名を脳裏に思い浮かべた。

「・・・そうだな・・・」

 だからこそ自分は名を捨てたのだと、ジルは改めて思った。


「じゃあ改めて、私の名はマルクス。マルクス・エリーダだ」

 エリーダという家名はどこかで聞いた事があるような、と思いつつもどこかの貴族の出なのだろうとジルは思った。

「ああ。マルクスよろしく。俺はジルだ。ジル・カグラ」

 ジルはマルクスの眼をしっかりと捉えてそう告げた。まさか、名前を言ったばかりにこの後思いもよらない事実を知ることになるとも知らずに。



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