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あの場から逃げることが出来たのはジルにとって本当に感謝してもしきれないものであったが、いい加減降ろしてもらえないだろうかと、ジルは青年の横顔をちらりと伺った。
「あの・・・自分で歩けるので、降ろしてくれませんか」
そんなジルの申し出に面白そうな表情を浮かべた青年は、少し考えるそぶりをして口を開いた。
「君可愛いからさ、ほっといたらまたさっきのみたいなのに捕まりそうだしな・・・あ!そういえば君は何号館で試験を受ける予定なんだい?」
少し話しを反らされ気がしたジルだったが、今は下手に出ておこうと素直に彼の問に答えた。
「W号館ですけど・・・」
それを聞いた青年は顔をパアっと明るくし、「奇遇だね。私も同じところで受けることになっているんだ。うん。これはまさしくミシェル様のお導きかもしれないね」と陽気に話すのだった。
ミシェル様とは、この国ルーベルの建国にあたって尽力を注いだ騎士であり、今なお語り継がれている英雄である。
そしてジルの悪い予感は当たり、青年はジルを抱えたまま試験会場へと歩みを進めた。
もちろん公衆の面前でそんな醜態を晒したくなかったジルは、必死の抵抗を試みるのだった。
「あ。あの!助けて頂いたのは本当に有り難いんですけど、大丈夫ですから!・・・それにもしかしたら勘違いしてませんか?」
「・・・勘違い・・?」
鼻歌交じりに歩いていた青年は、そんなジルの問に歩みを止めた。
「そ、そうです。俺、れっきとした男なんで、こんなことしてもらわれても・・・って、うわっ!?」
ジルは突然浮遊感に襲われ、お尻から地面に落下していた。
「いてて・・。っいきなり何するんですか!?」
大きな怪我を負った訳ではないが、尻餅をつき痛かったのも事実であった。
「・・・お・・とこ・・・?」
青年は理解できないといった表情を浮かべながら、尻餅をついているジルを放心状態のまま眺めるのだった。
「あー・・・。何だよ男かよ・・」
青年は先程までの明るい表情を一変させ、柔らかそうな茶色の髪を手で掻き交ぜ、苦悩の表情を浮かべていた。
「えっと・・・なんかすみません。男で・・・」
何だか自分が悪い気がして、とりあえず謝罪をしたジルだった。
「あ。いや、私も勘違いして悪かった。気分を害したのなら謝ろう」
青年の言葉は、先程までの軽い口調ではなかったことからも、彼の謝罪の意を表していた。
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