宛先:上島 柾
Re:

おしごと大変そうだね
私も手伝えたら良いんだけど


「……うーん、」

どうしてもそれ以上の言葉が出てこなくて、私はベッドに体を投げる。本当は、「会えなくて寂しい」とか「一緒に帰れないなんて嫌だ」とか、いろんなことが頭の中で絡まってるのに。とりあえず、味気なさはデコメでカバーして、これで送信してしまおう、とボタンを押した。画面が切り替わって、送信中を告げる。
メールを見て、柾はどう思うんだろう。面白くない女と思うのかな。他に言うことないのかよって思うのかな。私はこれが精一杯なんだけれどなあ。ちょっとでも一緒にいたいっていう気持ちを、二行目に込めてみたんだけれど。……現代文のテストみたいだ。回りくどすぎるでしょ、と自分に突っ込みを入れる。ぶるる、とケータイが震えた。

宛先:八代 華音
Re:

思っていたよりは楽だよ
今日は琢馬も付き合ってくれたし

華音も来いよ
明日も今日の続きするって言ってたし


私に負けない位きらきらしたメール。「華音も来いよ、かあ……」その本心がわからなくて悶々とする。あーあ、向こうもそんな風に考えてくれていたら良いのに。来いよ、の後に付け加えられた柾のお気に入りのデコメは、笑顔でぴょこぴょこしてる。これ以上なくわかりやすいのに、ぜんぜん本当の感情が見えないよ。

「やっぱ私なんてどうでもいいのかなぁ……」

でもでも、どうでもいい相手と一緒に帰ったり、頭なでたり、するのかなあ。いやしないよね。するわけないよ。だってそんなのめんどくさいし。いっつも傍に置いてくれるし、メールだって毎日してくれる。しかもそのどれもが、すごい速さで帰ってくる。私以外とメールしてたら、絶対に無理だろうっていう速さだ。

「あーあ。好き」

面と向かっては冗談でも言ったことのないその二文字は、彼を直接見てなかったらこんなに簡単にいえるのに。……私って、彼女だよね? 言ってないけど、私の気持ちには絶対気づいてるよね。だって柾、相手のことに直ぐ気づいてくれるし。私はそういうところが好きになったんだもんね。柾絶対、私のこと大好きだもん。絶対。
でもなあ。
ぐるぐるぐるぐる考えてたら、視界がぼやけてきて瞬きする。と、目じりから頬にかけてつうっと生暖かいものがおりていった。

(もう、なんで泣いてるんだろ)

馬鹿みたい。いや、馬鹿だった。馬鹿だよ。もうやだ。

宛先:上島 柾
Re:

琢馬君もアタック開始だね

うん 行く!
明日放課後 私も手伝いに行くね


私が持ってる中で一番笑っていそうな、テンションの高そうな絵文字をちりばめて。

「送信、っと」

絵文字だったらこんなに笑えるのになあ。
メールだったら元気でいられるのになあ。
素直で、いられるのになあ。

ぼろぼろと、涙は止まらない。

Title : やさしくしてよ
Special Thanls Hakusei

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