もう歩けないよぉ、と言ってから、うえーんと泣き真似をしてみる。鼻を鳴らして、相方は立ち止まって座り込んだこちら側まで軽く歩いて戻ってきた。
さっきひねった足首が、酷く痛んでいる。二時間歩きっぱなしの疲れが、不自然な歩みに出たのだろう。人並みの体力しか持ち合わせていないのに、わけあって疲れやすくなっている我の持久力は、そして忍耐力は、彼が想像するよりも無いと思う。
「あともう少しだ。ほら、立て」
「ミロたんがおんぶしてくれたら、いいのにぃ」
なんて言って、時間を稼いでみる。五分でいいから休憩をくれたらいい。
大抵こういうことを言うと鞄から水を出して飲ませてくれるのだ。そういう、ちょっとのやさしさというか、口には出さないやさしさのあるひとなのだ、彼は。
無意識に、ひねった足を撫でる。大丈夫、あともう少し。腫れてはいない。少し方向が不味かっただけだ。帰ってサポーターでも巻けば、すぐ痛みも引くだろう。大丈夫。まだいける。ともに歩める。
「おい」
視界が暗くなって、視線をあげるとそこには相方の背中があった。座り込んでいる。お尻を若干突き出すようにして。
「なに、叩いて、いいの? むしろ叩けばいいの?」
「置いて行くぞ」
「待って。どういうこと」
不機嫌そうに、一瞥をこちらにくれた。わがまま言いすぎて怒らせたか。それにしてもこの不可解な状況はなんだ。人通りが少ないとはいえ、道の端で学生二人が縦方向になって座り込んでいるんだ。明日のこの地区の新聞に載るかもしれない。不審者として。それは避けたい。なんとしても避けたい。立場上目立ちたくないというのもあるけれど、そんな不名誉なことで目立ちたくない。
しかし意味が分からない。意図することが、分からなかった。
「……いつまでこんな恰好をさせているつもりだ。早く乗れ」
「え、え?」
「それとも立てないほど痛むのか」
此方を、今度は身体ごと振り返って見せた。
「た、大したことない」
「なら早く乗れ。お前がしてくれと頼んだんだろう。5時から会議もあるし、僕は急いでいる」
「じゃ、じゃあ、乗っちゃおう、かな?」
勢いで言った。
……冗談じゃあなかろうか。
けれど冗談を言うような人ではなかった。どちらかというと、優しくしてくれる方が、彼らしいといえば、らしかった。
立ち上がって、彼の両肩に手をのせて、少し体重を込める。いつもヒョロヒョロだーとからかってはキレられているけれど、今度からはそれを避けようと(少なくとも、今は)心に決めるくらいには、我とは違って堅かった。
2015/03/16 足首
ミロたんお借りしました。
確かと信じる終着点に向かって
(訳:この子たちいつもどこをそんなにほっつき歩いているの)
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