隣の寝袋が空になっている。
そのせいで寒さを感じたのか何なのかはわからないが、とにかくわたしは目を覚ました。暗い闇の中で目を凝らして時計を確認した。日付が変わって一時間ほど経っているが、まだまだ外に出るには早すぎる。わたしが気づかない間に魔物にでも囲まれたのだろうか。物音を立てないよう細心の注意を払い、枕元の武器を手に取りテントから出た。
「ん……悪い、起こしたか」
相方の、呑気な声が暗闇から聞こえた。
「何をしているの?」
「いや、大した用事じゃない。けど、しばらく起きていたら、面白いものが見れるかもしれないぞ」
意味深な物言いをする人だ。彼の隣に座って、彼の隣に座る。熱を閉じ込める花石を用いたカップを手渡される。促されるままに飲むと、甘い紅茶だった。火を起こせばいいのに、それをしないのは何か考えがあってのことなのだろう。よくわからない。
ふと上ってきたこのはげ山を振り返る。……まだ日が真上にあったころに出た街は、とっくに闇に飲まれて消えている。
三日ほど、仕事をしていた街。いろんな人に出会った。仕事を依頼してきたセッタとその友達のリリアンをはじめ、彼らが住む孤児院のシスター。それから、リリアンの姉が働いてるパン屋さんの店長さん。ああ、あそこのパン、もう一度だけ食べたかったな。
この仕事を初めてもう半年になるが、まだ別れには慣れない。旅仲間である相方は、師に付いて色々な街を訪れてきたらしいので、この気持ちには、もうあまり賛同してくれない。まるでひとりぼっちみたいだ、と思うとなんだか余計にもの悲しくなってきて、小さく俯いた目に涙がにじんだ気がした。
「ほら、見上げて」
背中を押されて、あわてて上を向いたわたしの目に、光が走る。
ごう、と音。
何故だかそれが、泣いているように、震えるように聞こえた。
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