「あっれー! 君ってばもしかして、期待の新人さんー?」

突然奥から声が上がり、ちろりとそちらに目をやる。今は同じ新人である少年とも一緒ではないし、多分私のことを言っているのだろう。と、軽く手を振っている男性が目に入った。おそらくはあれが声の主だろう。そうこうしている間にそれは近づいて、私の目の前に立った。

「やあ、僕はトリクシー・リシュナー」
「はじめまして。小鳥遊……、アズサ・タカナシです」

トリって呼んでねーと差し出された手をとると、ゆるく握られ、そのまま離された。握手、と言えるかもわからないその動作に、この人の心の隙間を見る。

「タカナシ、ってはじめて聞くねえ。日本の名前なの?」
「ええ、小鳥が遊ぶ、と書いてタカナシです」

へえ、と興味があるのかないのかわからない返事を返される。が、ふと思いついたような顔をして言う。

「僕のあだ名の『トリ』ってさ、日本語では、『鳥』をさすんでしょ? おそろいだねえ」
「ええ、そうですね」

まあ、飛べないわけだけれど。
そう思ったのは多分私だけではなく、彼もまたそうだろう。小鳥が遊ぶと書いて、「タカナシ」。鷹がいないから、小鳥が飛べる。遊べる。だから「タカナシ」。今は鷹もいなければ小鳥もいない。そんな苗字を私が背負うなんて、皮肉としか思えない。

「ま、死なないように、気をつけて。でも頑張ってね」
「ええ。ある程度頑張って引退します」
「頼もしいね」

パーカーの前ポケットに手を突っ込んで、あはは、と軽く笑う。そうはならないことをわかってる。この人はよく知っている。と、遠くから彼を呼ぶ声。

「それじゃあ。なんかあったら、相談乗るから」
「はい。よろしくお願いいたします」

丁寧に頭を下げると、重力にしたがって両耳の近くで結わえた黒髪が垂れる。
ああ、世界は私たちが羽ばたくには重く苦しい。

顔を上げると、彼はにこやかに微笑みながら、「じゃ!」とだけ告げて去っていった。

2012/12/30 flightless bird
馴れ初めうまい
飯がうまい






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