触れる。
ただそれだけのことに、私がどれだけの喜びを感じているのかを彼はわかっているのだろうか。その温かい頬に、雲を溶かしたような白銀とりんごの色をした髪に、筋肉がつかないといつも嘆いている、それでも硬い胸に、体に、触れられる喜び。
「クリス」
「なに?」
彼にぎゅっと抱きしめられながら、私は顔だけ上げてそういう。
「このままどこかに行ってしまおうか」
「……」
青い二つの目はどこまでもまっすぐに私の目を射抜いている。血のように真っ赤な目を。……彼も、この色は別のところでよく知っているのではないか、と思うことがある。それはもちろん私の憶測でしかないし、それを彼に問うたことはないけれど。彼はいつも私の目の中に、それを見ている気がするのだ。それを見ながら、私を見ている気がするのだ。
「クラウスは、雲みたいね。どこまでも自由に見えて、そうではないわ。風に流されているだけ」
「手厳しいな」
「私もそうだもの」
どこまでも自由でいたいのに、自由でいたいと願うことがすでに、鎖につながれていることと同じ意味を持つ。
「私は、クラウスと一緒にいたいだけなの」
私たちを導く風は、きっと同じところを向いているのだろう。
よりよい世界を。よりよい未来を。
でもその風が吹き抜けていく場所は違う。
それは正義であり、また正義であり、悪である。
「もう少しだけ」
「もう少しだけ?」
もう少しだけ、こうして私を抱きしめていて。
もう少しだけ。もう少しだけでいいの。
「……なんでもないわ」
私はまだ、どちらの手も離したくない。
2012/12/23 corruption
「この鎖が朽ちてしまう前に手放すか」
「この鎖から抜け出すか」
危機感はクラウスのほうが強い気がするのです。
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