何してんだろう。と狭い空に問いかけても答えなんて出てくるはずがない。それでも俺は何度でも問い、そして何度でもそれに答えるだろう。……何もしてなどいないと。
ここに引っ越すまでは、空はつかめそうだった。というよりは空に俺たちは、俺はいると思っていた。窓の外には常に空があったし、その下には常に町が見えた。堅苦しく、特殊な素材でできた制服を身にまとい、必要とあれば暴力と権力を以って「悪」を「正」し、そうやって生活していた。それが今は、どうしたっていうんだ。硬いベッドに体を預け、携帯端末でニュースを確認しながら音楽を聞く。嫌になって立ち上がり見えた窓の外に広がる世界はひどく狭く、息苦しさまで感じる。無理もない。先の事件でこのエリアは被害を受けすぎた。それをとめられなかったのは間違いなく俺のせいで、その事実がよりこの空間を息苦しくさせた。ひびが入った隣のアパートの壁と、その向こうのアパートの壁。そしてぼんやりと写るのは塔。学校だ。それにそっと手を伸ばして、そのまま下ろす。

「何してたんだろうな、俺」

そっとつぶやいた言葉。ちろり、視線を下に移すと道路に車が一台。ただの路上駐車ではない。中に人は二人。いつもと同じ車でいつもと同じ人間。警戒しているのか舐めているのかわからないその有様に失笑を漏らしそうになる。おそらくは俺たちを監視しているのだろう。妙なことをしてないかと。それをイヴが知っているかどうかは知らないが。

(何もしねえよ)

見張りお疲れさん、と窓から離れニュースの続きを読む。でもそれが何になるって言うんだ。オルガは俺に何も言わない。車のことを気づいているのかとも聞かない。いつもかい出しに出かける彼女はずば抜けた記憶力を持っているし、気づいていないはずはないのに。いつもそうだ、オルガは少し俺を買いかぶりすぎている。それは、前回の事件でわかったはずだろうに。端末がふざけた音を立てて、メッセージの受信を伝える。送信元はリカルドだった。俺の体調や暮らしへの心配と、

「……ッ!」

これからの行動に対する多少の期待をはらんだその文面。
ぼすっと、思い切り端末を投げた先はそれでもベッドの上でそれが軽い音を立てる。無意識にベッドを選んだ自分の行動にも無性に腹が立って、そこに座って髪を掻き乱した。どうしろって言うんだ俺はこれまでやってきた自分の行動すら理解できなくなっているというのに俺がやっていたことは結局は父さんを殺したやつらと同じことじゃねえか「正義」とやらを振りかざして誰かを殺すことを消すこと黙らせることを正当化するそんな奴らをもう二度と現させないために俺はあの制服に袖を通したんじゃなかったのか。

俺はただの人殺しじゃねえか。

「……くしょ、ぉッ」

薄い壁はあまりにも厚く、蚊の鳴くような声は誰にも届かず消えていった。

2012/12/21 domestic animal
史上最大の兄ちゃんブーム。






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