(性別組み換え含む)

ぴぴぴぴ、と機械音が聞こえる。片手で毛布を体から離さないようにそっと体温計を脇から引き抜くと、小さな画面には数字がみっつ。

「測れた?」
「……」

ドアの向こうから聞こえてくる声に何もいわずに電源を切ると、ぴっと小さな音が響く。「平熱です。問題ありません」体を持ち上げると冷気が体にまとわりついて思わずもう一度布団を体に巻き付けなおした。それでも、元のあたたかさは取り戻せない。

「うっそー、何度?」
「100度」
「真面目に」
「平熱ですよ」

休め、休めというように、ずきずきと重く痛い頭を無視して布団から抜け出して、しわになってしまっていないかとスカートをチェックする。私に体温計を渡し、この部屋に半ば押し込むようにした本人である淳は、私がさっきまで作っていた、二人分の朝食の続きを作っているようだった。テレビのアナウンサーが7時を知らせる。

「ねえほんとに嘘ついてないの。顔色悪いよ」
「私は生まれつき色白なんです。パン、焦げたにおいがしますよ」
「え……、うわ炭」

自分で食べてくださいね? と冗談と本気で言うと、たまにはこうやって朝のんびりするのも悪くないなあとポットに水を入れてコーヒーカップ二つにコーヒーの粉を入れて待つ。

「一応お弁当作ったけれど、休む? てか休みなよ、テスト来週からでしょ?」
「だからこそ行くんですよ」

テーブルに食事が並べられる。食事といっても簡単なものだけれど。それと同時にポットがぱちん、と湯が沸けたことを知らせる。注いでいる間にもう淳は食べ始めているけれど。そんな彼の前に煎れたてのコーヒーを置くと「んー」とあいまいな返事をされた。

(それもあるけれど)と自分もコーヒーを飲みながら思う。欠席連絡を誰がいれるというんだ。本人から入れろと先日担任から連絡があったばかりなのに自分で入れるのがなんだか気が引けた。そういうところ、自分は真面目だなあと思う。だからといって、無断欠席すると家に連絡が行く。はあ、とため息をつくとめがねが曇って、ぼやけた。

「ところで、何度だったの」
「36度1分」

ふぅん、と言いながら気づいていない様子の淳に私はほっとした。うそはついてない。というか、とっさにうそが思い浮かばなくて本当の数字を言ってしまったのだ。隠すように、平然を装ってパンをちぎって口に運ぶ。ちょっと焦げてる。

(彼は私の平熱を知らない)

「そーいえば俊子ちゃんって、平熱何度だっけ」
「35度……あ」

まずい。とたんにコーヒーが味を持たなくなったように感じた。

「はいアウトー欠席連絡ー」
「待ってください勝手に」
「もしもし。そちらでお世話になっております小紫の父です……」

嘘を吐かないでください。
流れるような動作でポケットからケータイを取り出して連絡をする淳をみて、全部計算だったのではないかと考えて、だとしたらその策略にまんまとはまってしまった自分がいることに気づいてひどく腹が立つ。ああ、全部熱のせいだ。電話が終わるまで淳をにらみつけるとにやにやとこちらを見ている。やっぱりそうだ。

「はーい今日は休みー」
「……勝手なことをしないでください」
「あっれーあんまり怒ってないね」
「怒ってますよ」

はあ、と椅子にもたれる。腹が立つ。そうやって私の「できるはずがない」を「できた」に塗り替えていける淳に腹が立つ。「はいはい食べれるならちゃんとご飯食べて。市販の薬しかないけど良いよね?」とてきぱきしだす彼にできるだけ不機嫌そうに返事しながら卵焼きを食べる。唯一それだけ、焦げてはいなかった。ここで生活するようになって一番うまく作れるようになった、私の料理だから。

2012/12/07 only you
ちょっとだけ補足させてほしいのは、同棲するまでは料理なんてしたことなかったんだけれど、迷惑ばかりかけるのはいやだって料理しだしてたくさん作れるようになったんだろうなってことと、それと同時にできなかったことが少しずつ自分にはできたんだって思えるようになったんだろうなってこと。同時に嘘も下手になってたら可愛いですね。ほんとにうちの子なんですかね。可愛いですね。むかつきます。
なれないキーボードしんどい。オルフとエルの学パロ(性別組み換え含む)






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