「寝ちゃったの?」
ボクにそう問われたラルさんはもうすでに夢の中のようで、手の中にある本の、開かれたページはどこであったのかわからないことになっていた。ふふ、と思わず微笑んで、手元にあったしおりを適当なところに挟んでその手から離した。それでもまったく気づかないラルさんはとても疲れているようで、目の下にはうっすらとくまがある。あんまり目立ってはないけれど。なんとなく、手を握ると向こうからも握り返してきて、なんだか一段とラルさんがいとおしくなってきた。寝ている人特有の、緩やかな気が流れ込んできて、悪夢は見てないようだと安心する。そんな彼の唇に、ボクはそっとキスをした。
「ん、」
その、のどの奥から出るような唸り声とともに、急に気がはっきりしてきて、ボクは思わず彼から飛び退いた。といっても、あんまりうまく遠くまでいけなかったけれど。「あ」とか「う」とか、声にならない声がボクののどからも出てきて、はあ、もう、余計怪しまれるってわかってるのに。と、自分のスカートの端っこをかかとで踏んで、たおれ、「おっと、」
……る、とおもったけれど、ラルさんに腕を引っ張られて何とかしりもちをつくだけで済んだ。
「なあ」
「なに、」
『やばい可愛い』
急にそんな思いばかり流れ込んできて、心臓がきゅうって、痛くなる気がした。ひい、と小さく叫んで両手で顔を覆ったボクをみて、ラルさんも恥ずかしくなったみたいで、それが余計にボクを照れさせる。「か、ってに、ごめん。でも、しかたないじゃん!」手を離したって、流れ込んできた事実は変えようがなくて、にやけちゃって赤くなった顔をかくすので精一杯だ。ぐちゃぐちゃのどろどろに、ボクの感情とラルさんの感情が入り混じって、あたまがおかしくなっちゃいそう。はあ、と吐き出した息が熱い。好き。大好き。
「ドリラ」
そう言って腕をつかんで顔から離そうとするのに、いやいやと頭を振る。本気でかかったらこんな筋肉の落ちかけた腕なんて簡単に解けるのだろうけど、そうしないところが、好き。はぁ、とため息をついてボクから体を離す。
「おい……キスするぞ」
「し、たら」
しない癖に、と思ってたらぐいっとリボン掴まれて、引き寄せられる。はぁ、とちょっと熱い息がボクの手の甲にかかる。ドキドキして、でもそこから動かなくて、どんな顔してるんだろうとちろり手を除けて見るとその手を掴まれた。
「ひぃ、」
「ひぃ、って」
だってだって、という言葉を封じるように彼はボクの唇を唇で塞いだ。びっくりしたボクのその背中はそのまま床と平行になる。開けっ放しの目と目があって、どこを見て良いのかわからなくて百面相してるとやっぱりくすぐったくなるくらいの感情が流れてきて、胸元を押すけれど意味がなくて、横を向くようにする。
「ずるいよ、ラルさん」
「どっちが」
「でも、ずるい」
ちゃんと言えってば。って顔をされたけれど、そんなの言えっこなくて目を伏せる。
「俺にはわかんないんだってば」
それは、わかってるけど。
どうしていいのかわからなくて、でもどうやって、ボクはそれを伝えていいのかわからなくて、でも伝えたいのは、大好きだって気持ちだけで、近づいてくる青に目を閉じた。
2012/12/03 humming
吐きそう。
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