『足りない』

小さい頃から、その考えが消えない。何が足りないのかもわからないけれど、なぜだか心にずっと足りないものがある気がして、その思いを膨張させながら今まで生きてきた。たまにおこる胸痛の間は特に、その思いが増す。気持ちが悪い。自分の感情がコントロール出来ないこと以上に面倒なことはない。元はといえばこのせいで(いや、御陰かもしれないが)、私はこの島で王族の医者なんて仕事を与えられたのだ。我を忘れ力を使い、人を夜な夜な殺し、目を付けられ連行され。ここに来たら何かがわかるかもしれない、なんて思ったがやはりそんなことはなく、進んだ医療でもなんでも、私の胸痛と足りないという思いの謎は解けないままだ。

「ねえ、メルデル。お願いがあるんだぁ」
「なんでしょうか」
「島の外にねぇ、面白いおもちゃがたくさんあるんだけど、そいつらとのメッセンジャーになって欲しいんだぁ。お願いできるかなぁ」

なぜ私に、と思いながらも、口や顔に出せるはずがなく。でもクルト様はやっぱりその思いを汲み取ってくださったらしい。

「あそこにはねぇ、君の……ふふ。内緒だよぉ」

所詮私もおもちゃのひとつに過ぎないらしい。ある意味歳相応らしい顔を浮かべて彼は楽しそうに笑う。

「じゃあ、よろしくねぇ」
「……御意のままに」

跪いた形で頭を下げる。「下がれ」の合図で部屋を出た。

2011/12/23 foolishness
『愚かしい私はクルト様の掌で踊り、彼を楽しませているだけで良い』






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