私はいつからここにいるのだろう。
私はいつ私でなくなり、私になったのだろう。

「おねえちゃん! いっしょにあそぼ!」

ぱたぱたと足音が増えて、子供たちが私の周りに集まってくる気配がした。あそぼあそぼ、と手を引くその手は幼く、ふにふにしてて気持ちがいい。点字の本を置き、ステッキを左手に導かれるがままに歩き出す。階段、溝、その他いろいろの障害物に差し掛かるたびに周りにそれを知らされ、ステッキなんていらなかったなと思い始めた。

「今日は、何をするんだ?」
「今日はねえー、どろあそびだよー」

泥遊び、か。と少ない記憶を辿る。たしか、昔ギルバートがそんな遊びをして服を汚し、年かさの娘に怒られていたような。その頃にはまだロミオは居なくて、その少女が母親替わりとして家事一切を任されていた気がする。さて、彼女の名前はなんだったか。人の出入りが激しいこの家のメンバーの名をいちいち覚えていられず、私はそこでその考えを断ち切った。

「ロミオに怒られるぞ?」
「その時は、お姉ちゃんかくしてね!」

どうやってだ。と笑う。と、そこ段差あるからと声がかかった。そっと足を下ろすと水を含んだ砂の、じゃりじゃりとした感触。なんだかそこだけ涼しいように感じる。吹き抜ける風を肌で感じて、見えないけれど周りを眺めた。と、ギルの気配を感じて、子供の一人に尋ねると、呼んでないのにー。と言う。子供たちだけだと危険と判断したんだろう。なんだかんだで、あれは過保護だ。懐かしいなあとか言いながら子供に混じって遊んでるギルの近くの泥にそっと手を付ける。冷たいような、暖かいような。不思議な感触。

(懐かしい、か)

私も、泥遊びをした時代があったのだろうか。……いや、今もまだしているようなものか。私は泥遊びでうまれたようなものだから。感謝しているけれど。毎日なんだかんだと言いながらも充実した生活を送って。笑いあって。

「たのしーだろー? 昔泥団子をいかにきれいに作るかで争ったなあ。俺様が一番うまく作れたけど!」
「いつの話だ……」

きゃあきゃあ、という歓声。時折喧嘩になるからやめろという、ギルの声が響く。風が、吹き抜けて髪を揺らす。……心地いい。


(どうかあともうすこしだけ、このままで)


誰に対する願いかもわからないそれを、心中で祈る。

2011/11/24 mud play
※子供たちの服はスタッフ(ロミオ)が責任を持って洗いました。






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