泡沫。

たまに、そう思い出したかのようにぶくぶくと現れては消える言葉や感情の泡は、いつだって俺の「無駄だ」という考えによってかき消される。そうやって、感情を殺して生きることが美しいと教えられていたから。竜の言う通りに生きていれば、それでいいと。そうやって俺は生きてきたし、これからも生きていくつもりだ。

(いつまでだ?)

8つの頃に置いてきた《おれ》は訊く。「いつまでこんな茶番をするのか」と。俺は答えない。8つの俺を銃で撃ち抜いて。彼は少し憐れんだように、悲しそうな顔をして消えていく。そう、泡のように。

「昔々、人魚の娘がおりました」
「彼女は海で青年を助けましたが、」
「青年は別の、ヒトの娘に助けられたと勘違いしてしまいました」


幼いときに聞いた物語を思い出す。

「人魚は青年に恋をしていたので、声と引き換えに足を手に入れました」
「ですが、青年はヒトの娘との結婚を約束していました」
「人魚は青年を殺すか、青年と結婚するかしなければ」
「泡になって消えてしまいます」


俺は、俺を助けた人を間違っているっていうのか?

「人魚は青年の幸せを一番に考えていたので」
「自ら海に飛び込んで、泡になって消えてしまいました」


(――おれは、お前が幸せならいいから)

そっと耳の近くで囁かれたかのような錯覚。

(消えるよ)

そう言って彼はいつも去っていく。莫大な感情を引き連れて。
泡のように、消えていく。

2011/11/18 It becomes a bubble
自分を助けられるのは自分しかいないのかもしれないですね。

「人魚姫」です。
タクト君です。






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