成長しない体も、見えない目も、失った能力も、すべてひっくるめて《私》で《リリー》。能力があって、私だけど《リリー》じゃない《誰か》だった頃の私を知る人は、私の身の回りにはいないし、そんなもの私には必要ないと思えた。今も昔も、私にはリリーとしての記憶しかないから。私という器で生きている時間が20年以上あるのだと言われても、そんなの全くピンとこない。

「リリーはリリーでいいある」
「……そう?」

シャオリンに髪を結わえてもらいながら言われた。見えないのにくるりと振り返った私に、シャオリンは動いちゃだめとちょっとだけ怒る。唇を軽く尖らせて正面を向く。

「ゴム取ってほしいある」
「……」

目の前にあるドレッサーの、このへんにあるかな、位のところに手を伸ばし手に触れた丸い輪を取る。……日常生活には支障はない。ラドカーンが言うには、私にはもともと広い空間を認識しないと行使できないような能力があったから、その名残が体というか、器に残っているかららしい。詳しいことはよくわからないけれど、これで助かることが多いからまあいい。

(不思議だな)

私の中には《私》じゃない時の記憶がないし、私は初めから《私》だったと言えばきっとそうなのに、《私》じゃないときの私がいないと、今の《私》が証明できないというのは。

(私じゃない私も、私……リリーに必要だったのかもしれない)

それもこれもひっくるめて、リリー・フィンスターという人間なんだろう。

2011/10/10 useless death
リリーさんって不思議だなーと思った。
全部ひっくるめて、全部リリーさんです。






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