『むかしむかし、』

物語のほとんどはそれから始まることが多かった。まだ字がよくわからない頃、母さんはよく物語を読んでくれて、今でもその殆どを覚えている。セピア色の表紙と、それより濃いセピア色の紙に刻まれた物語。外にあまり出してもらえなかった自分にとって、たまに来てくれる近所の人と母さんとそれが、世界の全てだった。今思うとどれだけ小さな世界だったんだろうと思うけれど。

『灰かぶりは綺麗なお姫様になって、王子様ずーっと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
『お姫様のお母さんは? 一緒に幸せになったかな?』
『……お姫様のお母さんはいないのよ』
『いやだよ!! 私は、母さんと一緒じゃないと幸せじゃないよ!』

そう言って母さんの腰にぎゅっと抱きついたものだ。当時は大好きな母と一緒に幸せにならないと意味がないと思ってた。幸せになるなら母と二人で。母にほぼ洗脳されていたから、というのもあるだろうけれど、だから当時はそのお姫様の話は不思議に聞こえた。お姫様は薄情ものだとその話を嫌った。

――それが、どうだ。

ふわふわのドレス。控えめだがやはりあるひらひらのレース。歩きにくいヒール。どれもこれも高級そうなものに身を包んでいる。自分の意思ではあるが灰に、時には血にまみれて仕事をしていたのに。……あのお姫様みたいだ。こんなこと望んでないけど。母といた当時の自分が見たら、自分を薄情者と罵るだろうか。


(誰かのためになりたかったけど、こんなことになるなんて思うはずないじゃないか)


……別に富も名誉もいらないから、好きな人と一緒にいたいだけだったんだ。

2011/10/05 Cinderella
うちの白黒、というか赤緑のどっちか、或は両方か。
白黒の一人称は元は「私」ですん…。

BGMは「Bad Apple!!」でした。
…偶然だけどだいたいあってる。

一人称がないのはわざとです。
読み返したら意味がわかるかな…
そこまでかけるかわかんないけど。






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