「終わった」
「仕事ですか」
「ああ」

というなり彼はペンを大きな机に放り、高そうな皮製の椅子にもたれかかる。珍しいこともあるものだ。私が出した締切の5時の、30分前に終わるなんて。少しオーバーするのが普通なのに。……まあ最も、彼に本当の締切時刻を教えたことはないけれど。
書類の束を受け取り、癖の少ない、まあまあ綺麗な方に入る彼の字を追う。不足がないかを確認して、「受け取りました」と微笑む。小さな返事を聞いて背を向けたところで呼び止められる。

「オルガって、何が好き?」
「は?」

思わず声が裏返った。慌ててどういう意味ですか? と付け足す。

「いや、女にプレゼント渡そうと思うんだけど、何がいいかわからなくてさ」
「そ……ですか。相手が喜ぶものならなんでもいいと思いますけど……」
「お前なら?」

ぎ、と椅子が小さく呻く。体を起こした先輩の赤い目が私を見つめる。

「お前なら何もらったら喜ぶ?」

(あなたです。なんてね)

心の中で冗談を言い考える。(私なら、)アクセサリ関係だろうか。花束も無難でいいかもしれないけれど、異性からもらうにしてはこの二つはやや重たく感じるかもしれないな。……そういえばミシンの針がおかしいから欲しいなあ。あと刺繍糸にももうちょっとバリエーションが欲しい。チャコペンも小さくなってしまってるし……。あ、シュシュの糸がほつれてきたからそれ作る用の布が欲しいんだった。
そこまで考えて、ハッとした。全然女子高生らしくないな。

「そう……ですね……。好きな人に貰えたら、なんでもいいと思います」
「……お前絶対欲しいもの被服関連だろ」
「っそ、そんなことないですよ! アクセサリとかも欲しいですっ!」
「アクセサリ? 例えば? ブレスレットとかか」
「髪の長い人だったら、シュシュなんていいんじゃないですか?」

シュシュ……? 目を三角にして難しい顔をされた。これですよ、と髪を下ろしてシュシュを見せると納得したらしくいつもの顏に戻った。

「シュシュか……。柄は?」
「今年はチェックが流行ってるみたいですよ。誰にあげるんですか?」

ナチュラルに聞いてしまってちょっと焦る。私なんかがしていい質問なのだろうか。先輩もちょっとだけびっくりしたような、迷っているような顔をして、んーと唸る。別にいいですけど、みたいなことを付け足そうと言葉を探し始めた私を制するように、

「気が強いのか弱いのかよくわからん、リスみたいな後輩」

と答えた。……なんじゃそりゃ。リス? と首をかしげる。それを見た先輩は小さく吹き出して口を抑えて笑い声を我慢してるみたいな表情で私から目を離した。

「プレゼント買いに行くなら、私も行きましょうか?」
「んー? ……んー」
「他の方と行くならいいですけど。私もちょうどシュシュ見たいので」
「……いかなくていい」
「はい?」
「5時なるぞ」

時計を見ると4時55分。まあ本当の締切は6時だけれど。まあいいや。私は礼をして踵を返した。

(なに、それ)

顔が火照る。

(期待するな。私)

2011/10/04 play riddles
ウィンオル!
学校でウィンオルの話がチラッと出たので書いた。

オルガさんってリスっぽいなって思う。
ちなみに誕生日は9月でした。

なんだかんだでオルガさんずっと兄ちゃんの方見とけばいいなって思うよ。






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