「レティ。ケガの治療するから」
「……いい」

リベラメンテの抗争は、グラールの崩壊によって終焉を迎えることになった。グラールから必死になって離脱し、私たちはただ崩れていく塔を呆然と見ていた。が、いつまでもそうしているわけにもいかず、治療班としてするべきことを指示した後、私自身も負傷者の治癒に当たり始めた。
ゆるゆると首を振って、またぼんやりと塔を見つめる琥珀色の目。その目は潤んでなどいない。……壊れそうだ、と思った。いいと言われても負傷者の治療は自分に与えられた仕事。私はそっとその手を取ってぼろぼろの袖をめくる。水で傷口を洗った。その間も、彼女は痛がらずにただ、瞬きもせずに塔を見つめていた。

「……僕達がしてきたことって、なんだったのかな」

どきりとして立ち止まった。その私に気づいているのかいないのかはわからないが、彼女は続けた。

「僕はリーズを守りたかった。始めはあそこが嫌でウィンやクリスに迷惑かけたけど、だんだん好きになっていって。僕はだんだんここを守りたいって思うようになったんだ。レイモンドやクリスやウィン、そしてリーズがいるあそこを」
「……レティ、」
「始めてクリスに会ったときの僕だったら、きっと崩壊していく様をみて笑ってただろうね」

やめて。

言いたかったけど、口がパサパサになって言えなかった。もしもクラウスに会わなかったら。もしもフィエーロに入らなかったら。こんな感情を持つことはなかった。私がやってきたことは一体何だったんだろう。私は一体何をしてきたのだろう。レティを守りたい守りたいって、守れてもいないし辛い思いをさせる原因を作ったのは私だ。

「笑っちゃうよね」

首を振って傷口に薬を塗る。それにガーゼを引いて包帯でグルグル巻きにする。そんな今も、私の方に倒れかかってくるクラウスのあの重みが、体に蘇っていて。

「……クリスは、死になれた?」
「え?」
「僕は慣れないよ。この力で誰かに傷を負わせるのも嫌だ。ここにきてすぐ騒ぎを起こしたときも、クリスに銃の使い方を教えてもらったときも、僕は本当は嫌だったんだ。でもあそこにいたかったから仕方なかった。助けたい、とかそれもあるけれど。傷つきたくないから傷つけてた。矛盾してたらごめん」
「私も、慣れてなんかいないよ」

負傷者を助けに行ったら死んでた、なんてざらだ。はじめのうちは吐いたりしていたそれがすくなった、というのが慣れに入るならそうかもしれないけれど、人の死や傷に動揺しなくなったら終わりだ。自分と傷の距離を正しく測れなくなった者は、端から破綻している人間でなければ早死するだけ。

「みんな……そうだよ。きっと人殺ししたくてした人は少ない。リーズさんだってきっとそう。手段のひとつだったんだわ」
「なら、なおさらだね」

初めて私の方を向いて、無表情だった彼女は自虐的に笑った。

2011/10/01 scar
黒レティ。ごめん勝手に借りた。あんまり気にしないでください。
クリスに体の傷は治せても、心の傷は治せない。

煌鏡板に規制されて体の傷さえも治せないクリスは無力だね。






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