「ドリラ」
「なに、ラルさん?」

読んでいた本から顔を上げて、小首をかしげるドリラ。繊細な刺繍の施されたドレスを着た《彼女》は、そうしていると本当に、ただの女性でしかなくて。ドリラが男じゃないということは知っていたが、今まで決して女性としては見たことがなかった。ドリラはドリラ。シンプルなそれだけだったというのに。
バレないように、バレないように。ドリラは馬鹿だから危ないこともする。それをさりげなくフォローして。そうやっていたのにあの竜族は簡単にばらして。……それからだ。何となく複雑な気持ちになるようになり出したのは。

「なんでもねえ」

そう言って目をそらして、剣の整備を続けると「へんなの」と笑われた。ドリラの護衛に俺を推薦したのは他でもないドリラ自身だ。何を思って推薦したのかはわからない。一番近くにいたからだろうか。彼女はごめんね、と何故かあの時謝ったけれども、俺としても立候補しようか迷っていたからちょうど良かった。今思うとなぜ立候補しようと思ったのかがわからないけれど。それをリュミエルには感づかれているようだが、彼女はそれを思うたびになぜかにやにやとするだけだ。気持ち悪い。なんなんだ。
ちらり、横目で見るとドリラは俺のことなど気にせず読書を続けている。読んでいる本はどうせまた童話か何かだろう。昔からそうだ。寝る前に母親に語られる物語に集中しすぎて、ドリラはよく母親を困らせていた。それくらい、好きだった。

(……知ってるのは、俺だけだった)

ドリラと俺が幼馴染だっていうことも、ある日突然家に転がり込んできたことも、しってるのは俺だけだった。それが今はどうだ。そんなの此処の人間の上層部はみんな知ってる。なんでこうなったかなんて簡単だ。俺が、彼処から連れ出したから。連れ出さなかったらきっとドリラは辛い思いをせずに済んだ。自分が巫女であることを知らされず、世界樹に取り込まれるなんて残酷な運命を突きつけられずにすんだ。エナトに何をされるのかはわからないが。
今からでも、まだ間に合うだろうか。なんてたまに考える。お前は巫女だって告げられてから、ドリラは自分が負の感情に囚われないようにするためだろうか、怖いとか辛いとかなんて言わない。ただいつもどおりへらへら笑って、でも戦闘の時には相変わらずの、人が変わったような真剣さを見せて。いつまでそうしていられるだろうか。俺に記憶があったらよかったのに。少しは理解できただろうに。今からでもここを脱走して、どこかの、静かな目立たない街に住んで。図書館があればいいだろうな。ドリラの気に入りそうな街って、どんなのだろうか……。

(なんで俺がそんなこと考えてるんだよ)

自分がよくわからなくなって、ため息をついた。ドリラといると調子が狂う。いつも見てないと心配でひやひやして。正直ノースよりも手が焼ける。でもどうしてそう思うのかがわからない。ノースは俺よりもずっと幼くて、だから仕方ないと思っていた。他の奴はしらない。もしもドリラじゃなかったら、あんな面倒な奴絶対に放置していただろう。
ドリラだから。というのは理由になるのだろうか。というか、なんで。

「あ、こんな時間」

不意にしたドリラの声に驚く。動きにくそうにスカートをつまんで、本を片付け始めた。

「どうした」
「ノースと約束してたんだ。ちょっと出てくるよ」
「待て、俺も行くから」

いいよお、と苦笑い。こいつ表情筋どうなってるんだ。「良くない。お前に何かあって怒られるのは俺だからな」そう言って整備を終えた剣を鞘に戻す。ノース。その名前がでた瞬間胸がざわめいた。ほかの人間がノースと呼んでもなんとも思わないのに、ドリラが言うと気持ち悪い。他の人間の名前がその口から発せられると、全部そう思うようになってきた。自分の名前はまた別の気持ち悪さがあるから、黙っててくれないかと思う。
立ち上がって、武器を腰に下げて動きの鈍いドリラの少し前を歩いてドアを開ける。ありがとう、というドリラをみてまた複雑になる。お前とろいから。なんて冷たいことを言ったらまたごめんねと謝らせることになるから適当な返事を返した。

こうやって付いてくるなら、このままノースの元になど行かずにどこか遠い、世界の端にでも行ってしまいたい。そこにずっと閉じ込めてしまいたい。どうしてそんなことを思うのかなんてわからない。ただ漠然とそう思い、自分のそんなぐちゃぐちゃして気持ち悪い感情に、吐き気を催した。

2011/09/28 片隅
ラル→←ドリラ。だけど両方やっぱり気づいてない。
本編関係ないかもしれないし関係あるかもしれない。

自分だけが知ってる相手のことを周りがどんどん知っていって、その人が自分の知ってる人じゃなくなってくのに、それと同時に好きになっちゃったからどうしていいのかわからない。記憶の独占欲。

ドリラはきっと逃げることを望まないんじゃないかなあ…どうかなあ…。
ラルが誘ってくれたら、もしかしたら行っちゃうかもしれない。かも。わかんないや。

BGMはdoaの「英雄」でした。
あと、Deco*27の「愛 think so,」なかなかカオスだね!






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