(……ん、)
不意に目が覚めてしまって、ぼんやりとした視界の中に時計を探す。……まだ4時。朝というには早すぎるけれど、夜というにしては、てっぺんから随分離れてしまっている。ぶるり、と身震いして、自分の体の上にあったはずの毛布がどこかに行ってしまったことを知った。
(どこにやったんだろう)
脚と手を使って探すけれど、届く範囲にはなかった。おかしいな、と思っているとだんだんまつ毛が引き寄せられていく。と、ひゅうっと隙間風が体をなでて軽く身震いして体を小さくする。無意識に胸の前に置いていた手で暖を取るように、小さく、小さく。
それでももう瞼は離れなくて、人の気配、といってもその持ち主が誰なのかはわかっているけれど、とにかく彼が毛布をわたしの身体にかけなおしたのをぼんやりと感じていた。
そのままその手が離れてしまうのだろう、なんて思っていたけれど、彼はわたしの腕をそうっと、やさしく、胸のそばから下した。それにどんな意味があるのかなんてわかんなかったけれど、でもその所作だけでも、そしてそれから頭をなでてくれただけでも、なんだか、あたたかかった。
(いまだけは、ちょっとだけ、わすれたい)
わたしたちが寝ている間に、綻びがひろがりませんように。
ごそごそと動いた彼はわたしの横に寝転がって、しばらく頭を撫でて、撫でて、髪を弄んでいた。滅多にそんな、そういう表現をしない人だから、なんだかとっても恥ずかしくて、むずがゆくて、笑ってしまいそうだったけれど、でもそんなことしたらきっと彼は照れて、でもそれをかくして、もう二度とこんなことをしてくれないかもしれない。もしかして、わたしが寝たらいつもこんなことをしているのかな。そう思わせるくらいには、指先は迷いがなかった。
目を開けたら、きっとそこには広い景色が映るんだろう。
助ける価値のない、と思ってしまう人も、物も、どうしてもいるんだろう。あるんだろう。つらい思いをすることもこれからきっとあるだろう。
でも今だけは、前髪を器用にかき分けた彼の指先の優しさと、触れた唇の温かさだけで、わたしを満たしていたい。
どうか、わがままでいさせて。
ルル(2013/10/09)
やくしまるえつこ「ルル」より
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